2024年夏に開かれたパリ・パラリンピックの柔道で、インド勢初のメダリストが誕生した。指導に携わったのは兵庫県三田市出身の長尾宗馬さん(27)。インドでの柔道の認知度は高くはないが「世界一の人口で、優秀な選手が現れるポテンシャルがある」と躍進を期待している。(共同通信ニューデリー支局=岩橋拓郎)
「集中、集中!」。北部ラクノーにある柔道場に長尾さんのヒンディー語が響いた。畳の上では小学生から大人まで約20人が受け身の練習をしていた。パリ・パラの男子60キロ級(全盲)銅メダリスト、カピル・パーマー選手(24)も練習に訪れたことのある場所だ。
長尾さんが父親の勧めで柔道を始めたのは小学5年の時。大阪の強豪・履正社高では府大会で個人3位入賞し、摂南大では柔道部主将を務めた。
大学3年だった2018年、柔道部監督の誘いで2週間インドに滞在し、現地の人に柔道を教える機会があった。「インドでは柔道と空手の区別がつかない程度にしか知られていない」(長尾さん)が、熱心に練習する姿を見て時間をかけて指導したいと思った。
国際協力機構(JICA)の海外協力隊員として2022年3月に再渡航。指導を任されたパラ代表チームにパーマー選手がいた。技術よりもまず柔道着の畳み方といった基本を教えた。当初ヒンディー語は話せなかった。健常者に自分の動きを見せ、代表チームに説明してもらいながら指導した。
パーマー選手の実力はぐんぐん伸び、2022年12月の視覚障害者柔道の国際大会で優勝。長尾さんの派遣期間は2024年3月までだったが、インド柔道連盟のアンザール顧問の強い要望で年末まで延長。代表チームと共にパリの地を踏んだ。
パラ後の今も健常者を含む人たちに週6日、柔道を教える。インドは2036年夏季五輪・パラリンピック招致を表明。長尾さんがまいた種で、インド柔道界は大きな花を咲かせるかもしれない。