職人不足が能登半島地震の復旧を妨げる要因になっている。被災地の人口流出が加速した結果、解体家屋から瓦を取り除いたり、水回りを整えたりする職人も減って作業が進まない。石破政権は被災地に予備費を投じる決定をしたが、住民は「お金を出して終わりではなく現場で汗をかく人こそ必要だ」と指摘する。
石川県穴水町でキャンピングカー利用者向けの宿泊場を営む中川生馬(なかがわ・いくま)さん(45)は元日の地震で半壊認定された家屋の解体撤去を9月下旬にようやく終えた。敷地内にある納屋を新たな母屋に改装するため、地元の業者にユニットバス設置を申し込んだところ、人手不足を理由に断られた。事業の再建計画に狂いが生じている。
「もともと地方は社会の基盤を支えるエッセンシャルワーカーが足りない。いずれ深刻になると感じていたが、地震と豪雨で10年早まった」。家屋の解体を請け負ってくれた輪島市の大工は9月下旬の豪雨で自宅が土砂に流された。大工道具が水浸しになり、仕事がしづらくなっている。
「奥能登」と称される輪島、珠洲、能登、穴水の2市2町は地震の被害が特に大きかった。石川県によると、奥能登の人口は元日から8カ月で6.8%減った。住民票を移さずに避難している人を含めると、減少率はもっと大きくなる。さらに今回の豪雨災害で能登を離れる決断をした人もいるとみられる。
こうした人口流出を背景に、奥能登地方の職人不足は危機的な状況にある。穴水町の担当者は「県や国と協議しているが、正直言って独自に人を呼ぶ方策はない。奥能登全体の問題だ」と話す。(共同通信=浜谷栄彦)
石破茂首相は2014年、初代地方創生担当相に就き、地方移住を促すために各種の補助金を用意した。だが、この10年で東京一極集中は一段と進み、奥能登に象徴される中山間地は労働力が減るばかりだ。
中川さんは「これまでのように補助金を地方に分配するだけでは不十分。現場重視型の地方創生に転換してほしい」と政策の見直しに期待を寄せている。