中国で自動運転の技術開発が急速に進んでいる。中国IT大手百度(バイドゥ)の北京の施設を2024年6月に記者が訪れ、公道を走る自動運転車に試乗した。適切な状況判断と細やかな車体のコントロールは、まるで熟練のドライバーが運転をしているかのようで、その技術の高さにはただただ驚かされるばかりだった。(共同通信=磯田伊織)
施設の通路に止まっていた車の後部座席に乗り込むと、運転席には誰もいない。目の前に設置された液晶パネルに表示された「レッツゴー」という文字に指で触れると、車が動き始めた。
運転席のハンドルは人が動かしているかのように滑らかに動く。車が曲がる際には自動でウインカーが作動。敷地での走行中に運転席に透明人間が座っているかのようだと感心していたのもつかの間、車が公道に繰り出した際には一気に不安を覚えた。
だが、そんな不安はすぐに解消されることに。車はただ単に走るのではなく、隣の車線を走る車が寄ってきたら、車線の中で距離を取るようにハンドルを軽く反対に切って対処した。直線では加速し、車線変更で前に車が入ってくるとブレーキをかけてうまく減速した。
センサーで読み取った周辺の状況はモニター上に表示される。乗用車やバイクに歩行者まで正確に検知した。後部座席ではこうしたモニターの他、好きな音楽を楽しむこともできる。
対向車線で止まった大型のバスをよけようと、その後ろの車がこちらの車線にはみ出してきた際もしっかり回避し、何事もなかったかのように走り続けた。約15分の試乗はあっという間だった。
担当者によると、中国では現在、自動運転車がタクシーのように北京や深センなど10以上の都市で乗客を乗せて運行している。無人運転車側に責任のある事故は起きていないという。
中国の自動運転について「リスクを覚悟で普及させようという国家政策が異次元で、それに呼応して新規参入しようとする企業のチャレンジ精神が抜きんでている」と話すのは、明治大法科大学院の中山幸二教授(司法制度論)。新技術を徹底的に実験して安全性を確認してからでないと実用化できない日本とは異なると説明する。
日中の産業に詳しい中国社会科学院日本研究所の幹部は、失業を懸念するタクシー運転手の反発や事故が起きた際の責任の所在など、解決しなければいけない課題はあると認めつつ「未来の市場は大きく、新たな工業革命のチャンスだ」と期待を示した。