大仏像で有名な世界遺産の町、アフガニスタン中部バーミヤンから西に車で約1時間半。山岳地帯の標高約3千メートルに青く輝く湖沼群「バンデアミール」がこつぜんと姿を現す。国立公園で国内随一の観光地だが、イスラム主義組織タリバン暫定政権下で女性の訪問が禁じられた。観光業者は「大損害だ」と声を潜めて嘆いた。(共同通信イスラマバード支局=和田真人)
2024年9月初旬、空気がひんやりとする高地を走る主要道から脇にそれ、つづら折りの未舗装の坂を下ると、拠点となる湖に到着した。入り口の検問に白衣のような上着をまとった男性がいた。服装から勧善懲悪省職員とみられ、女性の来訪を調べていた可能性がある。
タリバン暫定政権は公の場で男性の注目を集めないよう、女性に全身や顔を覆う服装を義務付けた。バーミヤン州知事はバンデアミールへの女性の訪問を禁じた理由について、女性が服装の規則を守らないことや「トイレなどの女性用施設を整備できていない」ことを挙げた。
駐車場から湖に続く遊歩道で家族連れとすれ違った。妻とみられる女性に訪問禁止のことを尋ねると「知っていて来たが、検問を通れた」。現場対応は緩そうだ。遊歩道には男女別トイレも。
湖畔には複数の宿泊施設がある。うち1軒を経営する30代男性は「タリバンが女性の訪問を禁止したから大損害だ」と語った。2021年8月のタリバン復権前、約30部屋は毎晩ほぼ満室だった。今は「女性客が来たらタリバンが追い払う」。一家7人の暮らしは苦しいが「批判すると逮捕される」と小声で話した。
湖には白鳥形ボートが浮かぶ。アフガン人男性スタッフと2人で乗った。静寂と、崖が湖面に映る絶景に浸ったのもつかの間、他のボートから歓声が聞こえてきた。見回すと、あれもそれも、乗っているのは男性ばかりだった。