山口県萩市出身で、日本で初めてとなる新橋―横浜間の鉄道を開通させた功績から「鉄道の父」と呼ばれる井上勝ゆかりの品が、英国から故郷の萩市に寄贈された。長州藩士5人で幕末に密航した際に面倒を見てくれた恩師への贈り物の木箱などで、当時の日英交流と鉄道史を伝える貴重な史料。市の博物館が来年3月の公開に向けて、調査と準備を進める。(共同通信=井上大成)
寄贈されたのは、5人を世話したロンドン大教授のアレキサンダー・ウィリアムソンの日記や手紙に加えて、井上が教授に贈った木箱。いずれも教授のひ孫の夫や玄孫が自宅で保管していた。語学留学事業を通じて萩市と交流のある在英邦人の打診で実現した。
萩博物館の総括学芸員道迫真吾さん(51)が自ら渡英し、受け取った。注目するのは木箱だ。日本人のみで初めて掘削した京都―大津のトンネル「旧逢坂山隧道」開通を記念した物で、縦11.2センチ、横15センチ。トンネルの景色を刻んだ銀製パネルがふたの表面にはめ込まれている。工事を指揮した井上が1880年に教授に贈ったとされる。
工事の概要を説明する直筆の手紙も添えられ、丁寧な作りから恩師への特注品だった可能性があるという。国。内の博物館では所蔵がないと後に判明した。
道迫さんは「寄贈者に何かしらの報告をしないといけない」と、日記や手紙も分析している。
企画展は、萩の城下町が世界文化遺産に登録されてから10周年となるのを記念して実施する。道迫さんは教授の子孫らと密に連絡を取り、日英間で意見交換を重ねながら準備を進めている。子孫が大事にしていた教授の肖像も譲り受けた。「互いにウィンウィンの関係でないといけない」と語り、併せて展示する考えだ。