未舗装の山道を4キロほど登り、雑木林を抜けると、煙突のある一軒家が見えてくる。ここは山形県川西町の「tamaniwaワークショップ」、計2週間宿泊してクラシックギターの作り方を学ぶ塾だ。「作りながら工夫を見つけ出していく楽しさを分かち合えたら」。あるじの浜崎浩さん(81)が、妻維子さん(79)と共に迎えてくれる。(共同通信・中村茉莉)
ギターとの出合いは大学時代。新潟市から上京し、寮で同室だった友人が弾いていたのがきっかけだ。定番の練習曲から始め、流行曲を次々弾いた。しかし放送局に就職すると、忙しさに追われギターは忘れがちに。
その後、アパレル生地メーカーに勤めパリに暮らし、帰国してからは書店を経営。50歳を過ぎた頃、ふとギターのことが頭に浮かぶ。昔練習した曲をつま弾くうち「これを作ってみたい」となぜだか思い立った。
市販の製作キットを購入し、設計図を見ながら最初の1本を自力で組み立てたが、弦は鳴らないまま。そこでギター職人の工房に通って作り方を一から習った。構造を理解し、工具に慣れ、木が持つ周波数が最も生きるように作り上げる。1本完成させるごとに工夫を見いだし、熱中した。
栃木県那須町のゴルフリゾートでロッジの管理人として60歳を迎えた頃には、30本近くを完成させていた。定年後、長男が働いていた山形県に住むと決めていたが、新居に工房も構えることを思い付いた。泊まれるギター製作塾を始めてみよう。2004年開講した。
以来、ホームページを見てさまざまな人が訪れる。定年間近の会社員から、機械工学の専門家、学校の課題でギター製作を選んだ中学生まで。それぞれが思い思いのギターを完成させた。「半分くらいの人がきっと良いギターができると思って来るけど、1本目はうまくいかなくて当たり前」と浜崎さんは笑う。
当初は完成までの2週間連泊を受け入れていたが、浜崎さん夫妻の体力の衰えもあり、現在は7泊8日ずつ2回に分けて受講してもらっている。基本コースの費用は食事と宿泊、材料費込みで計31万円。冬は2メートル近く雪が積もるため休講する。春になったら、ミズナラやブナの葉が風にそよぐ音を聞きつつ、ギターを作るのはいかがだろうか。