緑豊かな岐阜県山県市に「キノコ仙人」と呼ばれる人がいる。野山に分け入ってキノコを集め、自ら獣をさばいて仕上げたジビエ料理に添え、客をもてなす。料亭「摘草料理かたつむり」店主の清水滋人さん(69)。店は、はるばる県外から多数の客が訪れるほどの人気で「キノコはお客さんを喜ばせるとっておき」と目を細める。(共同通信=村社菜々子)
清水さんの朝は早い。日の出前に家を出て、県内の山々に入る。キノコは夏によく育ち、最盛期には約80種類採れる。暑さに弱く、水分が欠かせず、夏は太陽が昇った2時間以内に採るのが肝心だという。「雨が降った3日後のキノコがうまい」
地元出身の清水さんは18歳から料理人などとして働いた。30年ほど前に「誰もやっていないことをやりたい」と思い立ち、キノコに関する本を数冊購入して独学を始めた。飲食店勤めのかたわら、キノコを採り、ホテルなどへの売り込みを続けた。
山県市の古民家を改装し、知人のシェフと一緒に店を構えたのは2012年。最初はキノコと山菜だけを提供していたが、客からせがまれ、ジビエ料理も始めた。地元の猟師から鹿やイノシシなどを丸ごと1頭仕入れ、仕留め方を見極めながらさばく。
完全予約制1日8~10人限定で、ランチ、ディナーともお任せのコースのみ。料金も決して安くはないが、著名人も通う野趣あふれる料理の名店として知られるように。いつしか清水さんも「仙人」と言われるようになった。
22年、大動脈解離を患い、生死をさまよった清水さん。1カ月間の入院と自宅療養で店に復帰し、その後も足しげく山へ通う。「仕入れも料理も、自分の中に強いこだわりがあるからいいものが作れる」と胸を張った。