秋田県藤里町で2022年、劣悪な環境で多くの犬を飼育し虐待したとして飼い主が逮捕される事件があった。犬は人におびえ慣れる見込みがないため、31匹の殺処分が検討されたが、「命を救いたい」と民間団体が県に協力。心の傷を癒やし人と暮らせるまで回復させ、新たな飼い主への譲渡を進めている。(共同通信=山☆(崎の大が立の下の横棒なし)祥奈)
県警は2022年3月、動物愛護法違反の疑いで飼い主の女性を逮捕。女性は略式起訴され、秋田簡裁から罰金の略式命令を受けた。逮捕時、住宅内は動物の排せつ物で足の踏み場がないほどだったという。県は計56匹を保護し動物愛護団体などへの譲渡を進めたが、うち31匹は「人に懐かない」として2023年夏ごろに殺処分する方針を示した。
すると県内外から抗議や「譲渡に協力する」との申し出が相次いだ。「どうしても命をつなぎたい」。秋田犬を保護する一般社団法人「ONE FOR AKITA」(秋田市)のチーフドッグトレーナー鈴木明子さん(63)も人に慣れるための訓練に協力し、県は方針を撤回した。
県によると、31匹は保護から1年が過ぎても、人が近づくと逃げて震え、触るのも難しかった。鈴木さんは全ての犬と毎日顔を合わせ、食べた経験が少ないドッグフードではなく、ゆでたささみ肉を与えるなど工夫。約1カ月で手から餌を食べ、首輪も着けられるようになった。「『絶対人に懐かない』と烙印を押された犬でもこれだけ変われる」。その後、譲渡が進み、今ではノウハウを県職員に伝えている。
「当初は痩せていたが今では食欲旺盛」「3回も脱走して大変だった」。県動物愛護センターは2024年11月、譲渡された犬と飼い主十数組を集め、近況を報告する「同窓会」を開いた。1月の息子の誕生日に1匹を迎えた同県大潟村の信太裕子さん(53)は最初は恐る恐る接していたが「今では散歩好きになった。今後も大切に育てたい」と語った。
県は2030年度までに犬と猫の殺処分をゼロにする目標を掲げるが、センターの鈴木豊次長は「行政だけでは限界がある。今後も民間から力を借りたい」と強調する。2024年12月20日時点で、行き先が決まらないのは残り5匹。センターは保護犬全ての譲渡を目指している。