明治時代から続く奈良墨工房「錦光園」(奈良市)の職人が、墨の原料となる「松煙」を継承するため生産に挑む。国産の松煙は墨の需要低下に伴い生産量が減り、存続が危ぶまれている。7代目の長野睦さん(47)は「消えつつある伝統を守りたい」と意気込んでいる。
松煙はアカマツを燃やして作るすす。油分を多く含んだアカマツに火を付け、少量ずつ小部屋で約100時間燃やし続けてすすをためる必要があり、手間がかかる。植物性油などが原料の「油煙」など他のすすに比べてコストも高いが「千年以上の古い歴史があり、水墨画では奥行きの深い色味が出せる」(長野さん)のが特徴だ。
ただ書道に触れる機会が減り、松煙の需要は低迷。国内で生産を続ける事業者は1社だけになった。長野さんは墨文化の継承に影を落としかねないと危機感を強め、自らも松煙作りを担うと決意した。
クラウドファンディングなどで資金を集め、生産施設を今年夏ごろまでに完成させる予定。ここでできた松煙を材料に奈良墨を作り、早ければ2026年にも販売を始めたい考えだ。