中東や欧州で続く戦争で「悪魔の兵器」とも呼ばれる地雷の廃絶が遠のいている。2024年11月、米国政府はウクライナに対人地雷の供与を表明、ロシア軍への使用を容認した。その直後にカンボジア・シエムレアプで開かれた対人地雷禁止条約(オタワ条約)の第5回再検討会議で供与の是非が争点となり、黙認派と反対派の分断が鮮明になった。(共同通信プノンペン支局=松下圭吾)
▽ロシアは大量散布
「米国はウクライナへの対人地雷供与の再考を」。ニュージーランド代表は会議で主張した。直接的な批判を避けたものの、欧州や南米の国々も懸念の声を上げた。
過去にノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)の連合体「地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)」の100人超が会場入り口で抗議集会を開催。会議でも、締約国のウクライナに条約を順守し、受け取りの拒否を求めた。
ただ条約未加盟のロシアは侵攻後、ウクライナ各地で大量の対人地雷を散布。2024年9月時点で地雷や不発弾により子どもを含む300人超が死亡、700人以上が負傷した。国土のほぼ4分の1に危険が残る「世界最悪の汚染状況だ」(ウクライナ当局者)。
ウクライナは会議で「攻撃が停止され、領土が回復した後に廃棄を確約する」と釈明。千キロに及ぶ長い戦線の防衛に対人地雷が有効と判断したとみられる。国際機関の担当者は、国連憲章は自衛権を認めているとして「国が存亡の機にある状況で条約違反だと一方的に批判できない」と理解を示す。
▽米、批判に対抗
批判に対抗し、未加盟の米国はオブザーバー資格でロビー活動を展開。外交筋によると、米国は会期中、議長国カンボジアと秘密裏に面会し、採択する政治宣言に供与批判を盛り込まないよう迫った。
最終日に採択された宣言は「新たな武力紛争で使用され、深い憂慮を抱く」との表現にとどまった。ただICBLは懸念を示す別の声明採択を働きかけ、25カ国が賛同。採択は失敗したが、分断が際立った。
対人地雷を全面的に禁止するオタワ条約は164カ国・地域が加盟する。ICBLによると、94カ国が対人地雷廃絶を完了し、5500万個超を廃棄してきた。
ただ2023年にはシリアやミャンマーなど50カ国以上で地雷が使用され、少なくとも5757人が死傷。フィンランド、バルト3国は加盟しているが、ロシアの脅威を受け、オタワ条約を離脱し地雷敷設を求める声が上がる。2025年の議長国の日本は侵略国への対抗と条約推進の矛盾の間で、指導力が問われることになる。