2004年12月のスマトラ沖地震は大津波が発生し、約23万人が死亡・行方不明となる甚大な被害を出した。最大の被災地はインドネシア最西端アチェ州。そこで先陣を切って現場入りし、がれき撤去に活躍したのは調教されたゾウ部隊だった。飼育するアチェ州スカムリア村にある林業省傘下の自然資源保護事務所ゾウ訓練センターの担当者は「予想を超えた動きだった」と当時を振り返り、存命のゾウたちを慰労する。(共同通信ジャカルタ支局=山崎唯)
▽片牙でも
鎖をかけた車を引き、牙でがれきを持ち上げる―。センター長のヌルディンさんは「重機よりも早く到着した。大木や重い石の撤去は元々慣れており、ゾウに戸惑った様子はなかった」と回顧する。
地震が起きた2004年12月26日、保護事務所の指示で、約50キロ離れた州都バンダアチェへトラックにゾウ8頭を載せて向かった。うち6頭が現在もセンターで暮らす。
ゾウは被災後の約3カ月間、獣医師を含め30人ほどのスタッフとともに活動した。がれきでゾウが足を切らないよう、ドイツの支援団体がタイヤ素材の靴を提供。遺体発見や収容を担うこともあった。
地震から20年たった2024年12月、バンダアチェの津波博物館はゾウ部隊の特別展を開き、顕彰した。最も貢献したのが推定40歳の雄、片牙のミドックだ。右牙の付け根を負傷し1986年に保護され、後に牙が抜け落ちた。ヌルディンさんは「力強く勇敢で、片牙だろうと重い物を持ち上げた」と感心する。
▽絶滅危惧
インドネシアではゾウの生息圏が森林伐採で減少し、ゾウが人家や農園を荒らして死者が出ることもある。センターは知見を持つタイから手法を取り入れ、調教したゾウを使い、野生ゾウを森に誘導する取り組みをしている。
センターは35ヘクタールの森や草原を有し、餌となるバナナやサトウキビ、草を育て、敷地内外でゾウ22頭を管理する。川に流されたり、親とはぐれたりした子象も保護、飼育している。
国際自然保護連合(IUCN)は2011年、スマトラゾウの絶滅危惧のレベルを「深刻な危機」に引き上げ、過去25年で生息地の69%以上を失ったと警鐘を鳴らした。センターによると、ゾウは減少傾向で、アチェ州で確認された野生個体は2015年時点で715頭だ。
ヌルディンさんは、ゾウとの共存を願ってやまない。「人里への出没頻度は増えているのが現実。生息地を脅かさないことが一番だ」と強調した。