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「緑のお茶が映える唯一無二の器」 来年100歳の女性、膳所焼守ったアイデア

京都新聞 2023年7月31日 14時20分

 江戸初期に生まれたものの、明治期にいったん途絶えた膳所焼。岩崎世津さん(98)は、大正時代に再興させた岩崎家・新定(しんじょう)氏の妻として、70年以上普及に励んできた。膳所焼美術館(大津市中庄1丁目)の名誉館長を務め、来年8月には100歳を迎える。「膳所焼は緑のお茶が映える唯一無二の色。茶文化と一緒に残っていってほしい」

 京都府保津村(現亀岡市)に生まれ、女学校を卒業後、華道と茶道の稽古に打ち込んだ。1947年、新定氏と結婚する。

 当時、半年に1回のペースで茶入れや茶碗(ちゃわん)を作っていたが、収入が得られる見込みはなかった。木綿の袋に包んで両手に持てるだけ持ち、知り合いを頼って売りに行った。近くて神戸、遠いと東京や博多。売り切るまで家には帰らなかった。

 52年、より多くの人に膳所焼を買ってもらうため、「お茶会」を開こうと思い立った。古民家を買い取り、茶室として家の庭に移した。早速開いたものの、客が少なく利益にならなかった。

 転機は、窯元50周年記念で茶碗を作り、お茶会の客に土産として配り、好評を博したことだった。毎年のお茶会でも土産に渡すようになり、その慣習が人づてに広まる。お茶会は盛況。一時は東京や九州からも200人を超える客が来た。高度経済成長期、茶道を習う人が増えたことも追い風になり、作った膳所焼は次々に売れた。

 87年には、夫とともに美術館を設立し、名品を一般に公開。地元の小学生などに膳所焼を通じてお茶の文化に触れてもらう企画も始めた。2009年に新定氏が逝き、昨年には窯元を売却。しかし膳所焼を後世に残すため、美術館でのお茶会は続けていく。「膳所焼は茶道具。芸術品としてガラス越しに眺めるだけでなく、ぜひ膳所焼でお茶を味わってほしい」

 お茶会は年2回開催予定。要予約。問い合わせは077(523)1118。

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