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社説:秋本議員の疑惑 再エネ事業をゆがめたのか

京都新聞 2023年8月8日 16時0分

 「政治とカネ」の疑惑がまた浮上した。

 自民党の秋本真利衆院議員が洋上風力発電を手がける「日本風力開発」側から数千万円の資金を受領したとされる贈収賄容疑である。東京地検特捜部が強制捜査に乗り出した。

 脱炭素社会の実現に向け、洋上風力発電は再生可能エネルギー普及の「切り札」とされる。私たちの未来に関わる政策が、業者との癒着でゆがめられたのなら大きな問題であり、徹底した解明が求められる。

 秋本氏は「脱原発」を掲げ、自民党内の再エネ普及の議員連盟事務局長も務めた。国土交通政務官として洋上風力導入に向けた2018年の再エネ海域利用法の制定を後押しした。

 一方の日本風力開発は青森県・陸奥湾などでの事業参入を目指し、同法に基づく秋田、千葉の3海域を対象にした第1弾の大規模入札に参加したが落札できなかった。

 秋本氏は国会でたびたび質問し、事業者公募の際の評価基準を見直すことや、青森県の海域で過度な規制をかけないよう求めていた。国会質問は収賄罪を構成する「職務権限」の行使に当たる可能性がある。

 国は、多くの事業者に参入機会を与えるとして第2弾の入札で評価基準の見直しを決めた。関係者によると、その直後の昨年10月下旬、秋本氏が議員会館事務所で同社社長から現金1千万円を受け取ったという。

 どのような趣旨の資金だったかが焦点である。社長側は秋本氏を馬主仲間だとし、共同出資する競走馬に関する組合への負担分だと主張している。

 だが組合の設立は21年の秋ごろであり、組合への資金提供は国会質問があった時期と近接する。特捜部は組合が実質的には秋本氏の管理下にあり、賄賂に当たるとみているようだ。

 そもそも国会議員が、自らの政治課題と利害関係のある事業者と馬主組合でつながり、多額の現金をやりとりすること自体がおかしい。国民が納得できるはずがなく、賄賂の「偽装」ではないかと疑いの目が向けられるのも仕方ないだろう。

 強制捜査を受けて秋本氏は外務政務官を辞任し、自民党も離党した。だが理由は一切明らかにしていない。

 自らの疑惑について国民に説明する責務がある。

 今回の疑惑は再エネ拡大の機運にも水を差しかねない。疑惑の解明とともに、公正で透明性のある事業の在り方を再構築しなくてはならない。

 岸田文雄首相は4日の記者会見で「国民の疑念を招くような事態となり大変遺憾だ」と述べながら、事件について答えることは避けた。

 政府の重要政策に関わる問題である。もっと危機感を持って、一段と高まる国民の政治不信の払拭(ふっしょく)に当たるべきだ。

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