われわれは現在、どのような時代を生きているのか。
この問い掛けに対する答えの一つが、「人新世(じんしんせい)」だとするものである。
46億年に及ぶ地球史を、地質年代で区分すると、現代までの1万年余りは「完新世」とされてきた。
ここから、核実験が本格化するなど人類の活動が地球環境に大きな影響を与え始めた1950年ごろ以降を切り離し、設定されようとしているのが人新世である。
どうして新たな年代が必要となってきたのか、考えておくべきだろう。
人新世とは、「人類の時代」を意味する言葉である。
オゾンホールを研究して、ノーベル化学賞を受賞した気象科学者のクルッツェン氏らが提唱した。
50年ごろを境にして、世界の人口は急増している。
これに伴い、石油などを燃やしてできる大気汚染物質や、核実験によって放出されたプルトニウムが、各地の地層から見つかってきたからだ。
地球環境が悪化することへの大きな危機感が背景にある、といえよう。
地質年代を決める国際地質科学連合(IUGS)は、2009年に人新世の設定に向けて作業部会をつくり、検討を続けている。
IUGSは3年前、地質年代のうち、まだ名称の決まっていなかった約77万~約12万年前について、千葉県の地層を基準に「チバニアン(千葉時代)」とすることを決めた。
同様に作業部会は先日、人新世が始まった時期を示す基準地層として、カナダ最大の都市トロントに近いクロフォード湖を最終候補地に選んだ。
湖水の循環が少なく、地層を分析しやすい点を評価したとみられている。
また、候補地の一つとして名乗りを上げていた大分県の別府湾も、人新世の特徴を明確に示せる場所として、基準地層の補助的な役割を果たすことが期待されている。
こうした学術的な作業を積み重ねたうえで、来年に韓国で開催される予定の万国地質学会議において、人新世を新たな地層年代とするかどうかが、正式に決まる。
人新世は、地球史の中では期間があまりにも短いことから、地質学者には設定に消極的な人もいるという。
だが、人新世は、地球温暖化にとどまらず、生物多様性の喪失をもたらす恐れがある、とされている。
巨大隕石(いんせき)が地球に衝突した時のように生物の大絶滅につながる、とする研究者も多い。
これ以上、人類が地球を破壊しないよう警鐘を鳴らすためにも、議論を尽くして人新世を設定し、世界全体で認識を共有していきたい。