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全国初の観光バス女性運転手、今も京都で現役 「運転しやすくなっている」理由とは

京都新聞 2023年8月10日 16時0分

 バスに乗った時、運転手が女性だと「珍しい」と感じる人は少なくないのでは。実際、国内のバス運転手に占める女性比率は1.7%(2021年度、交通政策白書)と極めて低い。そうした中、京都府内には40年近くにわたってハンドルを握り続ける女性ドライバーがおり、「もっと女性が増えてほしい」と思いを語る。

 京阪バス(本社・京都市南区)の運転手を長年務める中森真理さん(61)はかつて、大きな注目を浴びたことがある。

 1986年、観光バスで全国初の女性運転手として入社した時だ。古都税問題で京都観光が低迷し、男女雇用機会均等法が施行される中、話題性も見込んでの採用だった。

 中森さんがバス運転手を目指したのは、高校卒業後の2年半のバスガイド経験がきっかけ。その時、ドライバーを横目に「座っていて楽そう。私にもできる」と一念発起した。「実際やってみると、もちろん難しかった。若気の至りです」と苦笑する。

 ガイドをやめた後、普通自動車免許から取得。トラック運転手を経て、バスの運転に必要な大型2種免許の試験に臨んだ。

 当時の車両はパワーステアリングがなく、ハンドル操作にかなりの力を要した。試験は冬場だったが、「運転席の窓を全開にするくらい汗びっしょり。試験官には『閉めて』と言われました」と笑って振り返る。

 無事に免許を取得して京阪バスに入社後、定期観光バスにパワステ付きの車両が導入され、運転に集中できるようになった。

 「長い車両の感覚をつかむまでは大変でしたが、女性だからといって苦労は特に感じなかった」。女性ガイドが多い営業所だったため、施設面でも不便はなかったという。

■乗客から「女が運転するんか」

 ただ、周囲からは好奇の目も。当時のちまたでは、「一姫(女性)、二虎(酔っぱらい)、三ダンプ」という俗語がささやかれていたという。女性の運転が最も危険という意味合いで、乗客から「女が運転するんか」と言われたこともあった。

 今でも珍しそうに見られることはあるが、「男性の運転手より話しかけやすいみたい。『かっこいいですね』と声をかけられることもあります」。

 2005年から10年近くは、委託を受ける京都市交通局の路線バスに乗務し、後輩を教える指導運転手の立場にもなった。路線バスは時間に追われ、地理に慣れていない観光の車で混雑するなどストレスが募りやすい。

 そこで考え出したのが、常に笑顔でいること。「お客さんにイライラをぶつけるわけにもいかない。先に笑顔になっておけば少々のことでは動じなくなる」とうなずく。

■「チャレンジして」後進にエール

 2021年12月末に定年を迎えた後は再雇用となり、八幡市や京田辺市などの路線バスでハンドルを握る日々。今の営業所に女性運転手は中森さんだけとさみしさもある。

 「勤務が不規則になりがちだから、小さな子どもがいる家庭だと家族の理解が必要になると思う。若いうちに仕事を覚えておけば、子育てが一段落してからでも復帰しやすいのでは」とアドバイスする。

 パワステだけでなくオートマチック車が普及し、エアコンやドライブレコーダーが付くなど車両の性能は格段に向上している。道路も広がって運転しやすくなっているとし、「自ら線を引かずにチャレンジしてほしい」と後進にエールを送る。

 乗務中、日の出や宵に浮かぶ月をふと目にする時に喜びを感じるという。「これからも無事故で、1年1年の積み重ねが目標。生まれ変わっても、またバス運転手になりたいですね」

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