救えたはずの命が失われることのないよう、社会全体で取り組みを強化する必要がある。
国の人口動態調査によると、先天性疾患などに次いで子どもの死因(0~14歳)で多いのが「不慮の事故」だ。交通事故、窒息・誤嚥(ごえん)、溺水、転倒・転落などで、年々減ってはいるものの2017~21年の5年間に1229件あった。
0歳はベッド内などでの窒息が多く、1歳以上では交通事故と浴槽・海・川での溺水が多い。2~4歳は建物からの転落も少なくない。
たとえば添い寝による乳児の窒息がホテルで多いと分かれば、ベビーベッドを家族連れの客室に入れるといった対策が考えられる。
こうした事故例をより幅広く分析し、再発防止に役立てるには、子どもに関わる機関や警察、病院、法医学者などの一層の連携が求められる。
子どもの死因究明は「チャイルド・デス・レビュー(CDR)」と呼ばれ、米国や英国では制度化されている。
日本では20年度から国がモデル事業を実施。京都、滋賀など参加9道府県が自殺を含む地元の死亡例を検証したところ、三重など3県で「死を防ぎ得た」ケースがあったことが、共同通信の調査で今月明らかになった。検証結果は再発防止策に反映されたという。
CDRの意義が裏付けられた形だが、全国導入の道筋はいまだ見えない。事件性の有無や老若にかかわらず、死因の究明は公衆衛生の向上に資するとして積極的に検証を進める諸外国に比べ、日本は専門の人材や設備が少ないためだ。
遺族の同意の取り付けがネックになっているとの声もモデル自治体には多い。滋賀県の報告書によると、国の手引に従い同意取得作業をしたものの、41%の遺族から同意書が返送されなかったという。
自ら死の背景を話すことがかなわない子どもに代わり、専門家が一つでも多くの事例を調べ、共通要因を探って予防に生かすのがCDRの主眼である。遺族同意の在り方について再考すべきだろう。
もっとも、遺族の心情に配慮して、中立的なコーディネーターが間に入るなど丁寧な説明とコミュニケーションは欠かせない。これらの支援職や専門医ら実務スタッフの養成、資機材の充実を急ぎたい。
19年施行の成育基本法は、子どもの死因究明の体制整備を国と地方自治体の役割と定める。20年施行の死因究明推進基本法の付則にも、施行後3年をめどに制度化を検討するとある。
今はまだCDR自体の認知度が低いが、公益性が広く認識されれば遺族の理解も得やすくなろう。事業を所管するこども家庭庁は、しっかりと前に進めねばならない。