地方分権の流れを逆行させることがないよう、丁寧に議論を進めなければならない。
新型コロナウイルス禍を教訓に、政府の地方制度調査会(地制調)の専門小委員会が、感染症のまん延など非常時の行政体制について答申素案をまとめた。
国の指示権を拡充し、個別法に規定がなくとも、自治体に必要な事務処理を指示できるルールの法制化を柱としている。年内にも答申をまとめるという。
現行の制度では、災害対策基本法など個別法に定めがある場合、国民の生命、財産保護のため特に必要なときに指示権を発動できる。違法な事務処理をした自治体には地方自治法に基づき是正指示も出せる。
地制調の議論では、感染症法の想定になかった例として、新型コロナ初期の客船ダイヤモンド・プリンセス号への対応を挙げ、国が都道府県域を超えて入院先の調整を担ったとした。新型インフルエンザ特別措置法による施設の使用制限や店舗の時短要請でも調整が難航したとしている。
素案では、こうした個別法が想定しない非常時で、国民の安全に重大な影響を及ぼす場合に国が指示を出せるよう、自治法に明記する必要性を指摘した。
非常時に国民の安全を確保するのは重要だが、確認しておきたいのは、国と地方は「対等・協力」の関係にあるという大前提だ。2000年の地方分権一括法で、それまでの「上下・主従」から転換した歴史がある。
国が指示権を拡大解釈して、裁量を広げるようなことがあってはならない。全国知事会も地制調に「地方の自主性や自立性を十分尊重すべき」との意見書を提出した。
このため素案では、法制化するルールは「特例として明確に区分して設けられるべき」との考えを記した。新たな指示権は閣議決定を経なければ発動はできないとの要件も示した。
情報共有や要員の確保など非常時の対応をスムーズに進める狙いとみられるが、コロナ対策では、国の判断が勇み足とも言える例も目立った。
典型的なのは、感染拡大当初、当時の安倍晋三首相が突然出した休校要請や「緊急事態宣言」だった。自治体の業務と市民生活が大混乱した。
ワクチン接種や感染者数の全数把握見直しでも国と地方の連携がぎくしゃくした局面があった。コロナ禍を教訓に、見直すべき行政課題は多岐にわたる。
新ルールの法制化で国の権限を強めるだけでなく、都道府県や市町村がどこまでの業務を担えるのか、そのための財源は確保できるかも洗い出して役割分担を検討すべきだろう。
現場を預かる自治体もただ国に要望するだけでなく、主体的に動いて「国と対等な立場」を実践してもらいたい。