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社説:出自を知る権利 尊重すべきは子どもの意思

京都新聞 2023年11月14日 16時0分

 子どもが遺伝上の親を知りたいと望むのであれば、希望にかなう環境整備を進めるべきだ。

 第三者の精子や卵子を使った不妊治療に関し、ルール作りを検討してきた超党派の議員連盟が、子どもの「出自を知る権利」を一部認める方向で新法のたたき台修正案をまとめた。来年の通常国会への法案提出を目指す。

 自分のルーツをたどりたいという思いや遺伝性の病気、近親婚への不安など、知りたい理由はいずれも切実だ。その意思は尊重されなくてはならない。

 海外では英国やニュージーランドなど、20を超える国や州が法律で権利を保障している。

 日本では、2020年に成立した民法の特例法で、提供卵子や精子で生まれた子の親子関係が明確になったが、出自を知る権利は明記されなかった。

 議連が昨年3月に示した案では、情報開示は提供者の同意があったときに限定するとされ、一律に保障されないことに当事者らから異論が出ていた。今回、権利に配慮した内容に踏み込んだ意義は大きい。

 修正案では、精子や卵子の提供者、提供を受けた夫婦、住所、マイナンバーなどの情報を独立行政法人で100年間保管する。子どもが18歳になった後に要望すれば、身長と血液型、年齢を開示する。個人を特定する情報は提供者に確認し、同意を得られた内容が伝えられる。

 法整備と併せて重要なのは体制づくりだろう。出自について親が子へと伝える際、どのように話し合うべきなのか、親子が相談できる支援体制が必要だ。

 子どもからの開示請求があった際、提供者が安心して情報を伝えられるような環境を整えることも不可欠である。

 これまで権利に関する議論が進まなかった背景には、提供者が減少するとの懸念がある。

 提供精子を用いた人工授精や体外受精を実施する東京都の病院が昨年2月から1年間、提供者を募集したところ、7割の人が、生まれる子どもが将来希望すれば面談や手紙などに応じる「非匿名」提供を選択した。払拭(ふっしょく)の一助となる動きだろう。社会的な理解をより広げたい。

 今春には当事者や専門家が、生まれた子と提供者とをつなぐための支援を行う団体を設立した。こうした取り組みも生かせるような形で、情報提供の体制づくりを進めてほしい。

 積み残した課題もある。案では、精子や卵子の提供を受けられる対象を法律婚の夫婦のみとしている。同性婚や事実上のカップルまでは広げず、代理出産は認めないとした。

 出自を知る権利は、病院の担当者だけに身元を明かして出産する「内密出産」や、養子縁組でも議論が必要だ。

 子ども本人の意思の尊重という原則に沿って検討を進め、当事者の意見も反映させた法案化を求めたい。

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