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「美大生は75%が女性、個展開催は85%が男性」アーティストの性と多様性守る京都の女性

京都新聞 2024年3月1日 6時0分

 男性中心の風潮が強い美術界でマイノリティーの声を社会に届けようと、京都市左京区のインディペンデント・キュレーター天田万里奈さん(44)が、女性やLGBTQ(性的少数者)のアーティストを支援する団体「SPECTRUM(スペクトラム)」を設立した。天田さんは「アーティストの多様性を確保することで社会の多様性が視覚化され、社会の中でさまざまな個人に対する理解や思いやりが深まる」と話す。

 天田さんがジェンダーに関して初めてもやもやしたのは幼少期。家の手伝いをする際、男の子は蔵の片付け、自分は食事の支度を割り当てられた。父親の仕事の関係で住んだ米国ハワイの中学校と高校ではジェンダーの不平等を感じる機会は少なかった。それだけに、帰国して慶応義塾大学に入学すると、ミスコンが大々的に開かれ、スポーツ観戦で女性が男性にお弁当を作ることにカルチャーショックを受けた。

 パリの美術大学院、外資系金融機関の日本勤務などを経て、2016年からアート業界で働き始めた天田さん。「性別とは関係なくいいアートを選ぶ」と考えるキュレーターが多い一方、実際に活躍する作家は男性が多いのが実情だった。天田さんは「表現の現場ジェンダーバランス白書によると美大生は約75%が女性なのに、美術館の個展開催は約85%が男性」と指摘し、「女性は社会的弱者としての視点で現代社会を描いた素晴らしい作品を残せるはずなのに発表の機会が少なく、アーティストとしてのキャリア継続が難しい。今の状況を変えるのが私たちの仕事」と力を込める。

 今年2月には日本文化を伝えるフランスのフェスティバルに参加し、参加作家のジェンダーバランスが平等になるように働きかけた。紹介した作家の中には雑誌に多数掲載され、注目度が上がった作家もいた。今後、海外の美術館への作品の売り込みを通じて、作家の収入や展示機会の確保を目指す。

 天田さんはフランスで展示した2人の作家を例に挙げ、アートの強みを説明してくれた。「女性の性を軽妙に描く冠木佐和子さんのアニメーションは、女性の性が男性の欲望の対象として描かれる社会通念を打ち破る。オートモアイさんの顔のない人の巨大彫刻は攻撃を受けやすい体勢で、裸で床に寝そべる。『若い女性』という記号を押しつけられており、豊かな女性像を持たない日本社会に身を投げ出しているようです」

 さらなる目標もある。日本でジェンダーに関する展覧会などを開催することだ。「アートは心から共鳴しあえるコミュニケーションツール。作品を通じて多角的にジェンダーを考える機会をつくりたい」

 4月からは京都市北区のキカ・ギャラリーでジェンダーについての勉強会を開催し、その成果を文章や展示で発表していく。「日本ではジェンダーについての最低限の議論がされていない。男性も男らしさを背負って、不利益を受けている。ジェンダーについて考えることはみんなの利益につながる」

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