「きずなっち、もっと押して」。5月下旬、滋賀県彦根市内の公園に男児の元気な声が響いた。一緒に大型ぶらんこで遊んだり、木の枝で地面に絵を描いたり…。一見すると仲むつまじい親子のようだが、ベビーシッターとして保護者に代わって寄り添う存在だ。
ベビーシッターの望田絡(もちだ・きずな)さん(36)。保育園を営む祖母らを見て育ち、自然な流れで保育士を志した。短大で保育士資格と幼稚園教諭免許を取得、卒業後に滋賀県近江八幡市内の幼稚園や保育施設で10年余り働いた。
多くの子どもと接する中で気付いたことがある。「未熟でか弱い存在と思っていたけど、自分の力で育つもの。物陰からそっと見守るように、成長のきっかけになれたら」。より一人一人と向き合いたいとの思いも募り、「モノカゲ保育office」の屋号を掲げ、2年前からシッターの道に進んだ。
対象は生後3カ月から小学6年まで。県内外、昼夜を問わず対応している。外遊びの際は下見をするなど、トラブルなく存分に楽しめるよう配慮を欠かさない。
依頼者の事情はさまざま。「いつでも子育てをバトンタッチし、ゆとりを持ってもらいたいのが一番。親の心の健康が子どものよりよい育ちにつながる」と強調する。子どもと過ごした内容や反応など、専門性を交えた事後の報告書も保護者に好評という。
共働き世帯の増加に伴い、国はシッターの利用割引券を発行しているが、対象は限られる。滋賀ではシッターの認知度も低いとし、「本当は預けたいのに周囲の目が気になって利用を諦める人もいる」と話す。
「男性」というハードルを感じることもあるが、「一つ一つ信頼を積み重ねていくしかない」。自らのことを知ってもらおうと、インスタグラムでの情報発信に加え、絵本の読み聞かせや保育士仲間とのワークショップなど「神出鬼没」を心がけている。
自身にも小学1年の長男がいて、仕事と家庭のバランスには心を砕く。「父親として迷いや反省もある。いろんな家庭を見て、僕も学ぶことは多いですね」