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山下達郎、竹内まりや…日本の80年代シティ・ポップが世界で再流行の謎

京都新聞 2024年5月11日 10時30分

 洗練された都会的な音楽として1980年代に流行した日本のシティ・ポップが2020年代前後から世界的に注目されている。いったいなぜ再流行したのか。その謎に迫る評論集「シティ・ポップ文化論」を編んだ京都女子大学講師の日高良祐さんに聞いた。

 そもそもシティ・ポップとは何か。日高さんは「山下達郎さん、竹内まりやさん、大滝詠一さんあたりが一般的なイメージでしょうか。でも80年代当時はそういうジャンルはなく、事後的に名付けられた」と説明する。

 リバイバルの要因については大きく二つの流れがあったと推測する。一つはインターネットを通じて「海外、特に英語圏で日本のシティ・ポップが発掘、引用されて広がった」とする説だ。

 評論集では、第1章で音楽ジャーナリストの柴那典さんが、この動きを掘り下げている。竹内まりやさんの「プラスチック・ラヴ」は、ジャケット写真を二次創作したイラストの人気も相まって爆発的に広まったとみる。ところが、その写真は、実際には違う楽曲のジャケットだったといい、「ブームの最初のところに勘違いがあった」と明かしている。

 もう一つの動きは「東京を中心としたレコード産業の関係者が、海外の動向と呼応する形で新しいマーケットを作り出そうとした」ことだという。柴さんは、都市における不動産のように、眠っていた楽曲を「再開発」する音楽ビジネスに着目する。

 評論集は、日高さんが当時所属していた東京都立大で2022年に開いた連続講座をもとにしている。「シティ・ポップそのものの分析というよりも、リバイバルという文化現象を考えたかった」と話す。「東南アジアで起こった同様のブーム、あるいは海辺やヤシの木といったポップなイラストイメージの力など、さまざまな要因が絡み合ってリバイバルにつながった」といい、評論集の表紙を手がけたイラストレーターの江口寿史さんら計10人が登場する。

 日高さんは「今のブームは動画や音楽を配信するプラットフォームを抜きには考えられない」とも語る。80年代の音楽関係者たちがかつての歴史を物語化して価値を高めようとするのに対し、「プラットフォーマーは音楽性や物語性を考慮せず、いかにアクセスされるかという数値に関心を注ぐ。そうした環境の中、リコメンド(推薦)機能を通じてリバイバル現象が後押しされている面もある」と分析する。

 「ディストピア的に聞こえるかもしれないけれど、こうした仕組みが引き起こした状況下で、人間がまた新たにカルチャーを生み出していく。シティ・ポップに限らず、新しい技術によって生じる文化現象として興味深い」と日高さんは話している。

 「シティ・ポップ文化論」はフィルムアート社、2420円。

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