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社説:検察の独立性 許されない政権の人事介入

京都新聞 2024年7月2日 16時0分

 政権に都合のいい人物を、検察のトップに就かせようとしたのではないか。

 そんな疑惑を招いた安倍晋三政権での人事に対し、司法が政府見解を覆し、法の解釈をねじ曲げたと断じた判決である。政府は真摯(しんし)に受け止め、経緯を明らかにすべきだ。

 東京高検検事長だった黒川弘務氏の定年延長を巡り、法務省内で協議した関連記録を不開示とした国の決定を、大阪地裁は違法として取り消し、開示を命じた。

 検察官の定年延長は安倍政権下の2020年1月に閣議決定された。黒川氏の退官予定のわずか7日前だ。当時、検察庁法で定年は63歳と規定され、政府はそれまで40年近く、「検察官に国家公務員法の定年延長制は適用されない」としていた。

 だが、法務省は適用できると突然解釈を変えた。政権に近いとされ、退官の迫った黒川氏を次期検事総長(65歳定年)に昇格させるための「官邸の意向」だとの批判が巻き起こった。

 判決は、定年延長が全国の検察官に周知されておらず、黒川氏以外に対象がいなかった点などを踏まえ、「唐突で強引なものであり、不自然」とした上で、「解釈変更は黒川氏の定年延長が目的と考えざるを得ない」と指摘した。

 「特定の検察官のための変更ではない」とする政府の見解を真っ向から否定した形である。

 公正、独立性を保ち、政治家の捜査もする検察に、時の政府による恣意(しい)的な介入や圧力は断じて許されない。

 裁判では、同省と安倍首相側との折衝状況は明らかにならなかった。異例ともいえる元法務事務次官の証人尋問が行われたが、元次官は「職務上の秘密にあたる」と説明を拒否した。

 官邸側の関与について、国会での検証と真相の解明を求めたい。

 与党内や一部の識者の「検討」だけで法解釈を変え、従来方針を反転させる安倍政権以降の常とう手段も問われよう。

 政府は法解釈の変更後、定年延長を認める検察庁法改正案も提案したが、著名人らを含め国民に反対の世論が高まり、廃案となった。黒川氏は定年延長の4カ月後、賭けマージャンをしていた問題で辞職した。

 安倍政権下では、森友・加計学園や桜を見る会などの問題が明らかになり、その対応で検察が忖度(そんたく)したとの疑念も指摘された。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件でも、違法な資金隠しを行った議員たちの大半を不起訴とし、批判を浴びた。

 先月には大阪地検トップの検事正を務めた弁護士が、在任中における準強制性交の疑いで大阪高検に逮捕されている。

 公正な捜査への信頼が失われれば、法治国家の土台が揺らぐ。検察は国民の不信が高まっていることに、危機感を持つべきだ。

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