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社説:新紙幣の発行 通貨の行方、考える機に

京都新聞 2024年7月3日 16時5分

 きょうから、約20年ぶりとなる新紙幣が発行される。

 偽造を防ぐために定期的に刷新している。紙幣としては世界で初めて、肖像の3D画像が回転するように見えるホログラム技術を取り入れた。肖像の背景にも高精細なすかし模様を加えた。

 新紙幣のデザインは、肖像が1万円札は日本資本主義の父とされる実業家の渋沢栄一に、5千円札は女性教育の先駆けとなった津田梅子に、千円札は微生物学者の北里柴三郎に交代した。

 新たな顔ぶれのお札が広く親しまれ、円滑に暮らしや経済活動に普及していくことを望みたい。

 ただし、新紙幣が使える環境は当面、まだら模様になりそうだ。

 金融機関のATMの大半は新紙幣に対応でき、交通機関の切符の券売機やスーパー、コンビニのレジも8~9割で扱える見通しだ。

 一方、飲食店の券売機の対応は5割程度、飲料の自動販売機は約2~3割と遅れが目立つ。駆け込みの改修依頼をこなしきれない状況もあり、メーカー団体によると、全てで新紙幣が使えるようになるのに1~2年かかるという。

 小さな店舗では、光熱費や材料価格の上昇が経営を圧迫する中、改修費負担に二の足を踏む事業者も少なくないのが実情だ。

 対応がばらつく背景には、前回20年前の刷新時とは大きく変化した「お金」環境もある。

 決済アプリなども急速に普及し、昨年のキャッシュレス決済比率は約4割に上っており、今回が「最後の刷新」との見方すらある。

 人手不足への対策や管理コスト削減の観点から、さらに「現金離れ」が加速する可能性がある。

 ただ、デジタルサービスに不慣れな高齢者らをはじめ、災害時や停電でも使える紙幣への信頼は依然として根強い。現金と電子決済が当面は共存し、便利さや汎用性、安心度を見定める形となろう。

 国は税金、公共料金のキャッシュレス化推進に加え、運賃を電子決済のみとする路線バスを今月にも認める方向だ。

 現金対応の負担軽減で運転手確保や経営改善を後押しする目的だが、従来の現金利用者への丁寧な周知や配慮が欠かせない。

 大規模な金融緩和が長年続き、過度な円安や借金財政の副作用が暮らしと社会を脅かしている。新紙幣は通貨の役割と影響の行方を考える機会ともいえよう。

 これまでの紙幣も引き続き使える。「交換が必要」などと偽る詐欺には十分に注意したい。

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