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歯科衛生士を目指した女性、気付いたら歯ではなく日本刀を磨いていた 「刀研師」にかける思い

京都新聞 2024年7月5日 7時30分

 自宅の工房で、福島県内の民家に長く保管されていた一振りの日本刀を剣士のように構え、研ぎ具合を見極める。複数の砥石(といし)を使って一心不乱に研いでいくと、さび付いた刀身が徐々に輝きを取り戻していった。

 一振りを仕上げるまでの2~3週間は、気を張り詰める作業が続く。依頼者から「元の姿を取り戻してくれた」という感謝の言葉に、日本刀研師(とぎし)の黒本瑠美(くろもと・るみ)さん(39)は「報われた思いで胸がいっぱいになる。疲れも吹き飛ぶ」と笑みを浮かべる。

 東京都府中市出身。青山学院大卒業後、手に職を付けようと歯科衛生士を目指して短大に進んだ。在学中、趣味のアクセサリー作りを通じて手作り市と骨董(こっとう)市の合同イベントに関わり、主催した刀研師の男性と知り合った。

 工房で刀を研ぐ作業を見学したのをきっかけに刀剣の美しさに魅了され、研師の仕事に興味を抱いた。歴史好きも高じ、織田信長や石田三成など戦国武将ゆかりの地を訪ね歩く中で日本刀への関心が高まり、研師の元で修行を重ねた。歯科衛生士の職には就かなかったが「歯と刃の違いはあっても、磨くという共通点はあったのかも」とほほ笑む。

 都内の工房で刀鍛冶(かじ)の修行をしていた夫と知り合い、2018年に結婚。夫が刀鍛冶仲間と刀製造販売会社「日本玄承社」を京丹後市丹後町に設立したのを機に21年に移住した。

 夫が鍛錬した刀のほか、注文を受けた古い日本刀を磨き上げる。本業の傍ら、日本刀の原料・玉鋼(たまはがね)のかけらを使ったアクセサリーの製造、販売も手がける。「芸術品としての日本刀を多くの人に鑑賞してもらいたい」との思いとともに日々、刀と向きあっている。

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