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社説:年金の将来予測 甘い前提では安心できない

京都新聞 2024年7月7日 16時0分

 甘い前提をもとに大丈夫といわれても、安心は見通せない。制度改革の取り組みを怠ってはなるまい。

 公的年金の将来を推計する財政検証の結果を、厚生労働省が公表した。

 経済の見通しなどを踏まえた年金の「健康診断」で、5年に一度実施する。40年間働いた会社員の夫と専業主婦の妻が共に65歳に達した世帯をモデルに、経済成長や労働参加の予想などが異なる4つのケースで試算した。

 このうち、経済成長率が標準的なケースを想定した場合、33年後の年金給付水準は現役世代の収入に比べ50.4%(月21万4千円)になるとした。将来の支給水準は現在より2割減るが、法律で定める「50%超」は辛うじて確保する見通しという。

 最も悪い経済想定を除く2通りのケースでも50%を超えるという。

 19年に実施した財政検証は、6通りの想定中、最も成長率が高い想定でも年金支給額は51.9%にとどまり、将来不安が高まっていた。

 今回は、女性や高齢者の就労が進み、新たに保険料を負担する人が増えたことから、やや改善を見込んだ。年金積立金の運用が株高で好調なのも寄与しているという。

 ただ、試算の前提には危うさが否めない。出生率の長期予想を1.36と見積もっているが、昨年、1.20と過去最低を更新した中で急回復すると見るのは不自然だろう。

 2年以上も目減りが続く実質賃金もプラスと仮定しているほか、外国人労働者の増加、株高の前提も楽観がすぎないか。

 政府は今回の検証結果を踏まえ、国民年金の保険料の納付期間を「65歳になるまでの45年」へ5年延長することを見送る方針という。秋以降の政局をにらみ、負担増への批判を避ける意図が透けて見える。

 5年の納付延長は負担が増える一方、国民年金は将来にわたって年10万円増えると試算されている。

 今回の財政検証では、制度改革の効果も試算した。厚生年金加入の従業員要件を撤廃するなど対象を広げた場合、パートなど短時間労働者の加入者が約90万人増え、給付水準を一定程度押し上げることも分かった。

 賃金要件の撤廃や労働時間要件の緩和に踏み切れば、比例して加入者が増え、給付水準も上がると試算される。

 そもそも、日本の年金水準は国際的に見ても低く、最低保障機能の脆弱さという課題を放置してはならない。5割としている基礎年金の公費割合の在り方なども含め、あらゆる選択肢を排除せず、議論すべきだろう。

 年金制度を安定的に運営するためには、小手先の数字合わせではない改革を求めたい。

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