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社説:不正続く自衛隊 徹底した調査、防止策を

京都新聞 2024年7月10日 16時5分

 法令順守の意識の低さが表れていないか。国防を担う組織にはびこるなれ合いは由々しい事態だ。

 防衛省と自衛隊で、安全保障に関わる機密情報である「特定秘密」のずさんな取り扱いが広まっている疑いが判明した。

 今年4月に海自と陸自で計5人を懲戒処分とした問題を機に調査を進めた結果、空自でも無資格の隊員らが秘密に触れていたほか、統合幕僚監部、「背広組」中心の内部部局でも同様の事案が起きていた疑いが浮上したという。

 海自トップの海上幕僚長が引責辞任し、複数の幹部を含む関係者も処分の方向という。内部調査で済ませず、国会をはじめ外部の目を入れた原因究明が不可欠だ。

 特定秘密保護法は「何が秘密かも秘密」とされ、当初から政府の恣意(しい)的な運用が懸念されてきた。秘密指定された751件(2023年末)のうち、防衛省は最多の6割近くを占め、取り扱えるのは身辺に関する「適性評価」を受けた職員や隊員に限られている。

 その防衛省で、秘密を知りうる立場にない隊員らへの漏えいなど法令違反が常態化していたとなれば、ただでさえ不透明な制度への疑念が強まるばかりだ。

 2年前には、海自OBに特定秘密を伝えた当時の1等海佐が懲戒免職になった。再発防止策に実効性がなかったのは明白である。

 順法意識の欠如は、企業との関係でもあらわになった。

 海自の潜水艦修理事業を受注した川崎重工業が、下請け企業との架空取引で裏金を捻出し、乗員が金品や生活用品などを受け取っていた疑いが浮上した。遅くとも6年前から続き、額は少なくみても十数億円に上るという。

 25隻ある潜水艦は川重と三菱重工業の2社だけで製造し、検査や修理も両社が担う。機密性や専門性を理由に事業への新規参入の余地がない環境が、癒着を生んだのは否めない。

 政府が43兆円に防衛費「倍増」を進める中、川重の24年度受注高は前期比360億円増の6千億円近くを予想している。競争原理が働かないまま聖域化している「抜本増強」の正当性が問われよう。

 防衛省では複数の内局幹部によるパワハラ行為が判明し、海自では隊員が潜水手当を不正受給した疑惑も明らかになった。

 役割と予算が肥大化する一方、見合う管理能力があるとは言い難い。表面的な処分や再発防止策にとどめず、信頼に足る組織へと根本から見直す姿勢を求めたい。

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