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社説:英国の政権交代 内外の分断、つなげるか

京都新聞 2024年7月12日 16時0分

 英国下院の総選挙で最大野党の労働党が圧勝し、14年ぶりに政権が交代した。

 保守党政権のもとで欧州連合(EU)から離脱して4年半。インフレや相次ぐ首相交代も重なり、国内経済と対欧州関係は冷え込んだままである。

 労働党党首のスターマー新首相は「私たちがこの国を再建する」と決意を語った。経済再生に手を尽くすとともに、秩序が大きく揺らぐ世界で、国連五大国としての責任を果たしてもらいたい。

 保守党政権下で行われた国民投票で、EU離脱が僅差で可決されたのは2016年。20年に実行したジョンソン首相は、新型コロナウイルス禍のパーティー開催など不祥事で退陣した。

 続くトラス首相は財源の裏付けがない大型減税を打ち出し、通貨、国債、株が急落する「トリプル安」に見舞われて50日で辞任。市場が放漫財政にノーを突きつけた「トラスショック」は、EU離脱による人とモノの循環停滞や、折からの物価高とも相まって英経済を打ちすえた。

 再建を託されたスナク首相も目に見える成果を出せないまま、不法移民をアフリカのルワンダに強制移送する法を成立させた実績などを掲げ、総選挙に打って出た。

 二大政党の下、労働党の勝利は、迷走する保守党政権への不信任ともいえる。トラス氏をはじめ現職閣僚が相次ぎ落選した。

 人権派弁護士でならしたスターマー氏は、「親ビジネス」を掲げて党の左派色を薄めて中道寄りに広げ、国民の不満を吸収した。

 経済再生では、財政難の中、医療制度の再建などに向けて法人や富裕層への課税強化が注視される。労働党支持者の過半数がEU再加盟を望むが、離脱に多くの労力を割いただけに、新政権は離脱維持のまま、貿易や投資環境を改善させる方向のようだ。

 国連安全保障理事会の常任理事国であり、首脳会議を開催中のNATO(北大西洋条約機構)の中枢として、ロシアの侵略を受けるウクライナへの支援で果たす役割は大きい。一方、中東情勢では、党内にパレスチナ寄りの議員が多く、イスラエルへの武器供与の停止が焦点となろう。

 今選挙では「反移民・反EU」を掲げる右派のポピュリスト政党が、初めて議席を得た。欧州各地で右派台頭の流れが強まる中、左派中道の英政権が国内外の分断を埋められるか。堅実といわれる新首相の改革手腕が問われよう。

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