自認する性別で生きる権利を守る上で、意義深い司法判断といえよう。
心と体の性が一致しない人が、性器の外観を変える手術をせずに性別の変更を求めた差し戻し家事審判で、広島高裁が変更を認める決定を出した。
性別変更で事実上手術を強いてきた「性同一性障害特例法」の二つの規定のうち、性器の見た目を変える「外観要件」を「違憲の疑いがある」とした。
もう一つの「生殖能力要件」について最高裁は昨年10月、「意思に反して身体への侵襲を受けない自由」を定めた憲法13条に反すると違憲決定をしている。
広島高裁は、「外観要件」自体は正当性があるとした上で、原告は継続的なホルモン療法によって要件を満たすと指摘。「外性器に特段の疑問を感じさせなければ足りる」と柔軟な解釈を示した。
二つの司法判断は、性別変更を断念するか、体にメスを入れるかという「二者択一」を求める現行法の違憲性を明確に断じた。
世界保健機関(WHO)は2014年、性別変更のための生殖能力要件は人権侵害に当たると声明を出し、欧米では撤廃が進んだ。
日本では04年施行の性同一性障害特例法の改正が進まない中、各地の裁判所が、手術なしで女性から男性への性別変更を認めるなど、個別救済を重ねてきた。
最高裁決定を受け、法改正を負う国会は、生殖能力要件を削除する方向で検討を進めている。
今回の司法判断は対象が申立者に限られる。個別性が高い問題ではあるが、当事者の権利擁護を基本に据えた特例法の見直しに反映させる必要がある。
一方、外観要件を巡っては、自民党議員らが、女性トイレや公衆浴場の安全を理由に「社会的混乱を招く」と慎重な対応を訴える。
だが最高裁でも「混乱を生じることは極めてまれ」との意見が出たように、漠然とした不安で立ち往生せず、性犯罪は別次元の問題として対応すべきではないか。
特例法施行から約20年間で、性別変更が認められた人は1万2800人に上る。性的少数者を取り巻く状況は変わりつつある。
長崎県大村市は、同性カップルの住民票の続柄欄に、異性間の事実婚世帯と同様の記載を認めた。総務省は「実務に支障がある」と難色を示すが、自治体が風穴をあけた点は注目したい。
性の多様性を認め、生きづらさを解消する社会の実現へ、前向きな見直しを重ねることが重要だ。