気分が深く落ち込む、眠れなくなるなど、出産後に慣れない育児でメンタルヘルスの不調をきたす「産後うつ」。実は母親だけでなく、父親も患うことはあまり知られていない。
国立成育医療研究センターの研究班が、1歳未満の子どもがいる世帯を対象にした調査によると、約11%の父親にメンタルヘルス不調のリスクがあった。その割合は母親と同程度というから、驚く人は多いだろう。
夫婦とも同時期に不調のリスクがある世帯は3.4%。子どもへの影響を考えれば、小さな数字ではない。
産後うつは、複数の要因が関連するとされている。
新型コロナウイルス感染が拡大した2021年の調査では、出産前後のパートナーがいる男性は、コロナへの強い不安があったり、家族や社会のサポートが不足していたりすると、発症リスクが2倍に高まることが分かった。
女性は母親教室や妊婦健診などで、赤ちゃんに関する一定の知識を学べる。退院後に母親の心身をサポートする「産後ケア事業」も自治体の努力義務となり、京都市や大津市をはじめ全国の市区町村で広がっている。母体の体調管理や授乳、沐浴(もくよく)方法の指導や相談のほか、精神的ケアも受けられる。
一方、父親は十分な知識や経験を持ち合わせないまま、育児がスタートすることも珍しくはない。学ぶ機会や支援も母親に比べて乏しいのが実情だ。
父親向けや、パートナーと一緒の育児講座などをさらに充実すべきだろう。産後うつに関する周知も欠かせない。父親が気軽に訪れ、相談できるような窓口や、同じ悩みを持つ父親同士で交流できる場所を設け、適切なケアにつなげる必要がある。
父親としての意識の持ちようも注意を要する。「仕事も育児も頑張らないといけない」「男だから一家を支えないと」という思いが強いと、弱音を吐きづらく、自分を追い込みがちになるという。
地域イベントや子育てサークルに参加するなど、社会とのつながりを持ち、孤立しないよう心がけたい。
政府は男性の育休取得の向上を目指し、「25年までに30%」の目標を掲げるが、現状は上昇傾向ながら22年度で17%程度にとどまっている。
育休とは別に、出産後に最大4週間取得できる「産後パパ育休」制度も創設された。
ただ、いくら制度を広げても、働き方を見直す意識改革や環境改善が伴わなければ、少子化社会が目指すべき「共育て」の道は整わない。
企業側も父親の産後うつへの認識を高めるなど、一段と目配りの効いた対応が求められよう。父親への支えは、母親と子ども、家族全体への後押しに結びつくはずだ。