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社説:自衛隊70年 不祥事続発、ウミ出す改革を

京都新聞 2024年7月20日 16時0分

 平和憲法の下で堅持してきた「専守防衛」は任務の急拡大で変容し、組織は深刻な不祥事が後を絶たない。今月で発足から70年を迎えた自衛隊は、抱え込んできたひずみが露呈し、国民の信頼が大きく揺らいでいる。

 終戦後、制定された新憲法は9条で戦争放棄と戦力の不保持をうたった。朝鮮戦争の勃発で、連合国軍総司令部(GHQ)の指示を受けて政府が警察予備隊をつくり、陸海空の3自衛隊を設けたのは1954年である。

 自衛隊と米軍が「盾」と「矛」の役割を分担し、日本は他国と一度も戦火を交えてこなかった。国内では大規模災害の現場で救助や復旧に尽力し、国民の間に根を下ろしてきた。

 だが、この節目に防衛省と自衛隊であきれるばかりの不祥事が続き、底なしの様相をみせている。

 安全保障に関わる「特定秘密」を艦艇などで資格のない隊員が取り扱っていたずさんな運用をはじめ、総額で4千万円を超える潜水手当の不正受給、「背広組」の内部部局幹部のパワハラ、施設内での不正飲食が判明し、防衛事務次官ら最高幹部を含む計218人を処分した。

 国民の信頼揺るがす

 各組織トップの一斉処分は極めて異例で、70年の歴史でも最大級の規模という。

 特に海自は不祥事が重なり、トップの酒井良海上幕僚長は事実上更迭となった。臨時記者会見で「見て見ぬふりの体制が残っている」と語ったように、高い規律が求められる組織でありながら、なれ合いにむしばまれていたのではないか。

 手当の不正受給では海自の捜査機関が元隊員を逮捕したにもかかわらず、一斉処分の公表時は隠していた。本当にほかにないのかと疑われても仕方あるまい。

 海自では今回の処分とは別に、潜水艦の修理を受注している川崎重工業が十数億円もの裏金を捻出し、乗員が金品や生活用品を長年受け取っていた疑惑も浮上している。

 近年は陸自で女性自衛官へのセクハラ、訓練中に隊員が撃たれて死亡する事件もあった。

 かねて指摘される閉鎖的な体質が根本にあるのではないか。川重の裏金問題では特別防衛監察が始まったが、国会をはじめ外部の目を入れ、徹底してウミを出し切るべきだ。

 肥大化によるひずみ

 不祥事の背景にある急速な任務の拡大にも目を向ける必要がある。

 政府は中国や北朝鮮、ロシアを念頭に「安全保障環境が厳しさを増している」として、防衛費を5年間で43兆円に「倍増」させ、米国製巡航ミサイルの購入や、沖縄をはじめ南西諸島の軍事拠点化を進めている。

 役割と予算の膨張に組織の管理能力が追いつかず、現場の負担も過重になっていると見ざるを得ない。

 今年4月には訓練中の海自ヘリが伊豆諸島で墜落し、乗員8人が死亡した。自衛隊機の死亡事故は毎年のように発生しており、十分な訓練ができていないとの指摘も出ている。

 問題は防衛省と自衛隊の組織の在り方にとどまらない。政治の責任こそ、厳しく問われなければならない。

 1990年代に始まった海外派遣を経て、自衛隊の変容が加速する転機となったのはちょうど10年前。安倍晋三政権がそれまでの憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認した閣議決定である。

 違憲との批判が渦巻く中、2015年には安保関連法の採決を強行した。22年には岸田文雄政権が、安保関連3文書を閣議決定で改定し、国会に十分な説明をしないまま反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を決めた。

 政治の責任明らかに

 強引に政策を転換しながら、統率すべき政治家が組織をコントロールできず、腐敗を招いているなら、文民統制(シビリアンコントロール)と安保の両面から憂慮する。

 今回の不祥事でも岸田氏は木原稔防衛相を更迭せず、大臣給与1カ月分の自主返納で済ませた。特定秘密の漏えいは、ただでさえ不透明な制度をずさんに運用していた失態である。特定秘密保護法施行以降の防衛相経験者を含め、責任を明らかにすべきだ。

 衆院安全保障委員会は近く閉会中審査で一連の不祥事を取り上げるという。問題の追及はもとより、国会の監視機能も見直し、防衛政策と組織運営のひずみをただす改革を求めたい。

 政府は米国をはじめ多国間での防衛協力の強化を進め、京都、滋賀の拠点でも共同訓練が行われている。24年度末には陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を発足させ、空自の「航空宇宙自衛隊」への改称やサイバー防御の拡充も計画している。

 一方で、自衛官の採用は昨年、募集の半分にとどまり過去最低となった。

 力での対抗に傾斜し、国民の理解を欠いたまま肥大化を進める姿勢を省みるときだ。

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