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京都市の路駐観光バス「市民通報制度」が物議 渋滞対策も「監視社会」「分断助長」の声

京都新聞 2024年6月12日 5時9分

 京都市内で渋滞要因となっている観光バスの「路上滞留」を把握するため、市は日時や場所、バス会社名などの情報をインターネットで募る取り組みを始めた。運転手への啓発に生かす目的だが、京都府警などに情報提供する可能性もあるといい、市幹部や市議、専門家から「監視社会につながる」「市民と観光客の分断を助長する」と懸念の声も上がっている。

 観光客の回復で観光バスの路上滞留が再び目立ち始め、交通渋滞の一因になっている。市は昨年から巡回調査を行い、バス運転手への啓発活動を始めたが、今秋の観光シーズンの活動に向け、市民にインターネットを通じて情報提供を求める。路上滞留の日時と場所は必須項目で、自由回答として滞留時間、バスに乗車している観光客の目的地、バス会社名、旅行会社名なども募る。滞留状況が分かる写真添付欄も設けた。

 寄せられた情報を集計し、同じバス会社が複数回、路上滞留を実施したと認められる場合などには、府警や近畿運輸局など関係機関に提供する可能性もあるという。写真撮影の際は運転手や通行人などが写り込まないよう求め、外部への公表も行わないという。市は「状況を正確に把握することで、抜本的な解決につなげる」と説明する。

 長年、解決できない観光シーズンの渋滞に向け、市民の協力を得るのが狙いだが、異論も出る。ある市幹部は「任意とはいえ、密告のような仕組みに違和感がある」、別の幹部も「市民と観光客との分断を助長する恐れがある」とする。

 情報提供の対象を「長時間の路上滞留」と定めたが、乗降のための停車は違反にならない場所もあり、写真の添付欄にも滞留時間の目安は記載されていない。与党市議の一人は「ルールを守っているバスまで提供対象になるのはおかしい」、別の与党市議も「監視社会になってしまうのは良くない」と危惧する。

 市観光MICE推進室は「内部でもさまざまな意見があったのは事実だが、情報はしっかりと精査し、適切に使いたい」としている。

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 オーバーツーリズムに詳しい京都橘大の岡田知弘教授(地域経済論)の話 オーバーツーリズムによる交通渋滞問題の解決は必要だが、市民から情報提供を募る制度の導入には強い違和感を覚える。本来なら渋滞原因を調査し、将来的にロードプライシング(道路課金)制度を含む対策を示す必要があるが、それなしに市民の「監視・通報」を求めると、いらぬ摩擦やあつれきが増幅され、「もてなし」を重視する京都観光のあり方を自己否定することになるのではないか。

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