「史上最悪の大統領」などと候補者同士がののしり合う光景は変わるだろうか。世界が注目する超大国の指導者を決める選挙に、ふさわしい政策論争を取り戻す契機としてほしい。
11月の米国大統領選で再選を目指した民主党のバイデン大統領(81)が撤退を表明した。
6月の候補者討論会以降、高齢による心身の衰えへの懸念が再燃し、足元の党内で交代を求める圧力が強まっていた。
バイデン氏は直前まで選挙戦続行の意思を示していたため、「(撤退が)党と国家にとって最善だと考えた」と突然表明したことは米社会を驚かせた。
土壇場になって身を引くことへの批判や、バイデン氏の適格性について検証を避けてきた同党の責任を問う声もある。
ただ、暗殺未遂事件を乗り越えて勢いに乗るトランプ前大統領の共和党陣営に対し、民主党内は亀裂の深まりが懸念されていた。現職大統領が再選出馬を断念するのは56年ぶりだが、支持者には「これで前に進める」などと賢明な判断として受け止める声が多いのは光明だろう。
バイデン氏は後継候補としてハリス副大統領(59)を指名した。他の党有力者や知事らも相次いで支持を表明し、現時点で最有力とされる。
当面の焦点は、8月19日から始まる民主党大会に向け、ハリス氏が候補者としての求心力を示した上で、危機感をバネに党の結束を強められるかだ。
副大統領としてのハリス氏はアピールできる実績に乏しく、国民の支持率も高くはない。だが、知名度に加え、女性で、世代が若返ること、黒人でアジア系であるなど多様性を象徴する属性は、トランプ氏に対抗しうる強みになるとの見方がある。
バイデン氏支持に拒否感を示していた層も含め、幅広い世代や人種の有権者を引きつける新機軸が示せるかが問われよう。
米大統領選の行方は国際社会に大きな影響を与える。
これまで分断をあおってきたトランプ氏は先週の共和党大会の指名受諾演説で、暗殺未遂事件を受け「社会の不和と分断を修復しなければならない」と強調。冒頭こそ融和を重視するそぶりを見せたが、その後は激しくバイデン氏を攻撃した。
外交や安全保障の基本政策でも、自国優先を徹底し、民主党政権が進める同盟国との協調路線への決別を打ち出している。
ウクライナへの軍事支援に否定的で、気候変動対策の「パリ協定」からの再離脱も主張する。通商政策でも関税引き上げなど保護主義が強まるとみられる。
こうした政策転換による「負の側面」についてトランプ氏は十分説明をしていない。
新しい顔ぶれでの論戦は、醜い個人攻撃ではなく、米国と世界の明日に責任を持つ大国のリーダーとしての見識と方策を示す姿勢で臨んでもらいたい。