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社説:ネットの偽情報 包括的な規制の議論を

京都新聞 2024年7月24日 16時5分

 うその災害情報や著名人を広告に使った投資詐欺など、インターネット上にまん延する「偽情報」は人命や生活を脅かしかねない。包括的な規制が求められる。

 交流サイト(SNS)を中心に広がる偽情報の対策強化に向け、総務省の有識者検討会が制度化の案をまとめた。

 違法な偽情報に対し、行政機関からの申請に基づいて、SNSを運営するプラットフォーム(PF)事業者が迅速に投稿の削除などに対応する仕組みを求めている。

 他の有害な偽情報に対しても、広告報酬の支払い停止、情報の削除、アカウント停止といった段階に応じたPFの対応の具体化を進めるべきとした。

 政府はこれまで事業者の自主的な対応に委ねてきたが、抜本的な改善につながっていない。発信や拡散の抑止には、行政の一定の関与が必要だろう。

 ただ、過度な介入は憲法が保障する「表現の自由」への侵害となる。対策案も「透明性確保は不可欠」と指摘しており、恣意(しい)的な申請を防ぐ枠組みが欠かせない。

 政府は先の通常国会で、ネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策の迅速化を求めたプロバイダー責任制限法を改正したばかりだが、さらなる法改正も検討するという。

 生成AI(人工知能)をはじめ新技術の開発は急速に進み、偽情報も巧妙化している。対策は後追いが続いている。

 海外では、欧州連合(EU)が巨大IT企業に違法コンテンツの排除を義務付ける法律を施行するなど、踏み込んだ対策で先行している。ガザ情勢で偽情報が氾濫したとして、EU欧州委員会は昨年からX(旧ツイッター)への正式調査を始めている。

 海外に拠点がある巨大IT企業が、規制の緩い日本で対策を小出しにして利益を上げている構図が浮かぶ。ネット情報に国境は関係なく、欧州に足並みをそろえた包括性と実効性のある法整備も視野に、幅広く議論することも必要ではないか。

 1月の能登半島地震では、虚偽の救助要請がSNSで拡散して混乱を招いたにもかかわらず、事業者は効果的な対策を講じていない。

 今回の検討委の聞き取りにも、国外の大手事業者は十分な回答を示さなかったという。責任ある企業の態度とは言えない。

 民主主義や国際秩序を維持する上でも、偽情報対策は重みを増している。世界的な視野で効果を高めなければならない。

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