2024年度の最低賃金(最賃)について、全国平均で時給1054円とする目安額を、厚生労働省の中央最低賃金審議会が取りまとめた。引き上げ幅は昨年度(43円)を上回る50円と過去最大に、時給額も最高となった。
歴史的な物価高と、春闘で大幅な賃上げが相次いだことを受けた引き上げ幅拡大といえよう。
働く人すべてに適用される最賃は昨年度、平均千円の大台に乗ったが、労働者の生活は好転していない。物価変動を考慮した実質賃金は、前年比マイナスが2年以上も続いている。
審議会では労働者側の委員から「生活していけない」などと切実な声も上がった。働く現場の実態に即した賃金の底上げ実現へ、政策を総動員すべきである。
今回の目安額通り改定されれば、全都道府県で時給900円以上になる見通しだ。京都府は1058円、滋賀県も千円を超え1017円となる。
目安額は経済状況に応じて都道府県をA~Cの3区分に分けて示されるが、今回は上げ幅に差をつけず3年ぶりに横並びとした。
ただ、それでは最高の東京都と最低の岩手県の差は220円のまま縮まらない。
岸田文雄首相は「30年代半ばまでに1500円」とする目標を掲げる。6月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太方針」では達成の前倒しを目指すというが、たとえ実現しても先進国の水準と比べると見劣りがする。
一方、大幅な最賃の引き上げは中小零細企業の負担が重い。
連合の最終集計によると春闘の平均賃上げ率は5.1%だったが、中小零細企業を対象とする政府の集計では2.3%にとどまっている。
人手不足が深刻化し、原材料高や労務コスト増の価格転嫁が思うように進んでいない背景がある。大手の下請けに対する価格抑制を見直し、IT導入や省力化などで企業の生産性を高める支援に国は一段と工夫を凝らしてほしい。
今後の焦点となるのは、8月から本格化する都道府県単位の地方審議会での議論だ。
昨年度は佐賀県で中央最低賃金審議会が示した目安額から全国最大の8円増やすなど、上乗せが24県に及んだ。
より高額の都市部などへの人材流出を防ぎ、担い手を育む上でも、京都や滋賀も含めた各地域で上積みや後押しの議論を深めてもらいたい。