20代から国内の外資系金融機関をいくつも渡り歩いた。話せる言語は英語や中国語など8カ国にのぼる。関東を拠点にしてきた中、昨年6月に京都府和束町でインバウンド(訪日客)向けの茶文化体験などを手がける会社「抹茶ツーリズム」を知人と起業した。
同社の新条正恵社長(47)は奈良県生駒市出身。アメリカの大学でビジネスやITを学んだ。帰国後は20カ国以上の人たちと働き、ソフトウエア開発部門の責任者も務めた。35歳で金融機関を退職してからはキャリアや語学能力を生かし、東京を拠点に経営者向けの英語スクールを始めた。
転機は昨年5月、約30年ぶりに茶摘み体験のために和束町を訪れたことだった。新型コロナウイルス禍で趣味の海外旅行ができない期間が続き、国内旅行の回数が増えていた。父は南山城村出身でかつては茶農家。「面白い場所に行きたい」と、今も茶農家を営む和束の親戚に連絡を取って、新たな出会いにつながった。
町内に「お茶好き」の外国人観光客が大勢来ていることに驚いた。ただ、町の人が英語に不慣れで困っている場面にも遭遇した。実家は茶業を辞め、茶農家の減少も気になっていた。「人ごとではなく、このままでいいのかな」という危機感があった。「茶の文化を学びたい観光客をまちとつなげることで、お金を地域に再投資できるのではと考えた」
和束を訪れてから1カ月後には会社を立ち上げた。拠点となる古民家も購入し、今春にはインバウンド向けのツアーを始めた。茶農家や古民家レストランなど30事業者と連携し、茶工場の案内や抹茶を点てる体験を用意している。
今年4月にアメリカから訪れた観光客には、町内の茶畑で新芽の刈り取り方などを自ら解説した。ツアーには7月までにドバイやイギリスから約20組が参加した。「自分の海外での経験も生かして、文化や歴史を説明できるところが強み」と胸を張る。
「町や海外の人が集まれる拠点にしたい」との思いから、来春にはカフェや宿泊施設の開設を目指して古民家を改装している。「和束と外の世界をつなぐ架け橋になりたい。お茶の歴史が50年、100年と続くきっかけになれば」。和束町原山。