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社説:巨大IT課税 公正な制度作りへ協議急げ

京都新聞 2024年7月30日 16時0分

 足踏みが続く「大改革」を実現するため、関係各国は今こそ大局的な視野に立って協議を前進させるべきだ。

 主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が、巨大IT企業の税逃れを防ぐための「国際デジタル課税」の早期創設で一致した。

 実現を急ぐべく多国間条約の署名を促す内容はG20の閣僚宣言で初めてで、一定の成果といえよう。

 しかし、肝心の署名期限は示すことができず、参加各国の立場の隔たりは大きい。国内で反対論が根強い米国の動向をはじめ、実現には不透明感を伴う。

 デジタル課税は、社屋や店舗などの拠点がない企業にも、利用者や顧客がいる国・地域ならば課税できるようにする。

 今の国際法人課税制度では、ネットを使って国境を越えたサービスを提供し、莫大(ばくだい)な利益を得る企業の課税が難しい。デジタル化が急速に進む中、物品や拠点を前提とした仕組みは「時代遅れ」とも言われ、課税を巡る不公平感が強まっている。

 このため、2021年の経済協力開発機構(OECD)会合で、約140の国・地域がデジタル課税に向けた多国間条約の創設で合意。全世界で売上高が約200億ユーロ(約3兆3千億円)を超え、売上高に占める利益の割合が10%超の多国籍企業100社程度を対象にするなどの大枠を決めた。

 ただ、条約発効には対象企業の6割以上が含まれるよう、これらの企業が本社を置く国の批准が条件とされる。グーグルやアップルなど、対象企業の約半数がある米国内の調整が進まず、当初目標だった23年中の署名は2度にわたり延期された。

 G20閣僚宣言ではこうした経緯を踏まえ、「より安定的で公平な租税制度を構築する」と強調、速やかな実施への決意を示した。イエレン米財務長官も加わったが、11月の米大統領選と連邦議会選を控え、署名の実現は疑問とする見方も根強い。

 野党共和党の候補となったトランプ前大統領は、減税の公約を柱に据えている。選挙の結果次第では、署名に向けた議論が行き詰まる事態も懸念される。

 閣僚宣言は、かねて課題だった超富裕層の課税強化も盛り込んだ。しかし、「各国の主権を尊重し、効果的に」などとあいまいな文言にとどまった。

 だが、一握りの巨大IT企業や超富裕層があるべき税負担を免れている現状は、経済格差と不公平を助長し、社会の安定と持続性を脅かす危うさにつながる。

 欧州では多国間条約とは別に個別の法整備を目指す動きもあるが、各国の利害対立を深めかねない。一国の既得権益や政治的事情に流されず、実効性ある妥結点を探ってほしい。

 OECDで国際課税改革を進めてきた日本政府は、協議が空中分解しないよう積極的に役割を果たしてほしい。

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