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社説:心情等伝達制度 更生への効果、検証を

京都新聞 2024年8月2日 16時0分

 刑事事件の被害者や遺族の心情を刑務所職員らが聞き取り、収容中の加害者に伝える国の「心情等伝達制度」が始まり、半年以上になる。

 被害者らの思いを加害者に届けることで更生を促すと同時に、被害者の心のケアにつなげることが求められよう。

 新制度は昨年12月から始まり、5月末時点で被害者らからの申し込みは59件だった。周知不足が指摘される。制度を着実に浸透、定着させなくてはならない。

 内訳は、被害者本人からが19件、遺族や保護者からが40件。施設別では少年院が15件、刑務所が44件だった。主な伝達事項は、加害者に弁償を求めたり、反省の有無を確認したりする内容のほか、仮釈放に反対する意思を示すものもあったという。

 これまで保護観察中に同様の制度はあったが、受刑者が被害者の思いに直接触れる機会はなかった。早期から犯した罪の重さを直視できるよう関連法を一部改正し、導入された。

 申し込めば各施設の職員が担う「被害者担当官」が心情を聞き取って書面を作り、その後、受刑者に読み聞かせる。被害者の希望があれば、受刑者の反応や発言を書面で報告する。

 2019年4月にあった東京・池袋の乗用車暴走事故で、妻子を亡くした松永拓也さんも今年3月に利用した。「どうすれば事故を起こさずに済んだか」などと受刑者に伝えたところ、「運転しないことが大事です」との回答や謝罪の言葉が後日通知された。これを機に受刑者との面会も実現した。

 ただ、手探り状態は否めない。保護観察中の利用でも低迷が続いている。要望に応じさせる強制力がないため不満や怒りを抱える可能性や、事件を思い出すことへの抵抗感があると見られる。

 新制度で重要な役割を担うのが担当官だ。加害者を指導してきた刑務官らが、被害者に向き合うことになった。

 被害者の気持ちに寄り添い、場合によっては反省が見られない加害者に、被害者の思いへの理解を促す必要がある。単なる伝言役にとどまらない姿勢と技量が問われる。継続的な研修の充実と経験の共有で、質の向上を図りたい。

 被害者の言葉により加害者の反省や更生にどんな効果、変化があったのかも、制度活用に向けた大きな要素となる。中長期の検証はもちろん、被害者にも結果を公表していくべきだ。

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