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社説:日銀の追加利上げ 「金利ある世界」影響見極めて

京都新聞 2024年8月3日 16時0分

 「金利のある世界」に本格的な復帰の歩みが進んだ。その足取りと日本経済や暮らしへの影響を見極め、より丁寧な金融政策の運営が求められよう。

 日銀は、3月のマイナス金利政策の解除に続き、追加の利上げに動いた。政策金利の誘導目標を0~0.1%程度から0.25%程度に引き上げた。

 リーマン・ショック直後の2008年12月以来、約16年ぶりの金利水準である。

 春闘の賃上げや企業の価格転嫁の広がりなどを評価し、物価の上昇基調と景気は底堅いと判断した。

 植田和男総裁は、今後も想定通りに進めば「一段の調整があり得る」とし、さらなる利上げに言及した。金融政策の正常化を着実に進める姿勢を明確にしたといえよう。

 追加利上げの理由は、円安で物価が予想より上振れするリスクへの対応も挙げた。輸入物価の高騰は消費の足かせとなる。過度な円安に歯止めをかけたいとする政府・与党の声にも背中を押されたのではないか。

 併せて日銀は、長期国債の購入額を2026年1~3月までに月3兆円程度に半減することも決めた。購入減で保有資産を縮小し、量と金利の両面で金融引き締めに踏み切る形だ。

 6月に減額方針を示していたとはいえ、同時決定は景気を下押ししかねない。

 植田氏は会見で、非常に低い金利水準での利上げのため「強いブレーキがかかるとは考えていない」との見方を示した。

 ただ、個人消費の弱さを不安視する声は根強い。賃金の伸びは物価上昇に追い付いておらず、実質賃金は2年以上も目減りが続く。実質国内総生産(GDP)の半分程度を占める個人消費は、今年1~3月期まで4四半期連続マイナスで、力強さを欠いている。「見切り発車」と指摘する専門家もいる。

 利上げに伴い、メガバンクをはじめ預金金利を引き上げる動きが相次いだ。一方で、住宅ローン契約者の7割が選ぶ「変動型」の金利の上昇が予想され、奨学金などを含め返済負担が増す。企業も運転資金などを金融機関から借りる際の支払い利息が増える。

 先行きの不透明感に、米国の景気後退への警戒感も重なり、大幅な円高に振れて株価が急落した。個人消費が一段と冷え込み、景気が腰折れをしないか、今まで以上に慎重な目配りが必要だろう。

 また、国債の購入減では、日銀の保有残高は600兆円弱から7~8%減る見通しだ。発行済み残高の5割超を中央銀行が抱える事実上の「財政ファイナンス」状態と、市場の価格決定機能のゆがみを是正していくのは妥当だろう。

 長期金利の上昇局面となり、国の借金利払い費が膨らみ、政策経費を圧迫する。緩んだ財政規律の正常化が急務である。

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