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社説:シカの食害 災害招く山の異変に注意を

京都新聞 2024年8月5日 16時0分

 集落を襲った土砂崩れの発生主因は、シカによる食害だった可能性が指摘されている。

 滋賀県最高峰の伊吹山のふもとで先月、同じ地区に3度にわたって土砂が押し寄せる被害があった。1度目は4世帯に土砂が流入し、地元の米原市は警戒レベル5の「緊急安全確保」を発令した。2度目と3度目は、住民たちが被害復旧に取り組む中で起きた。

 最初の土砂崩れの引き金は、梅雨前線の影響で降った強い雨だったが、これからは少しの雨でも土砂が押し寄せかねないとの不安が、住民に緊張を強いている。秋の長雨や台風のシーズンを控え、土砂災害を食い止める緊急の措置を急がなければならない。

 併せて求められるのが、土砂災害を招いた河川の上流部での対策だ。伊吹山では2008年ごろからシカが草花を食い荒らす被害が目立ち始め、近年は斜面の裸地化が進んでいた。米原市などは、地面の保水力低下という山の「異変」が土砂災害の危険性を高めたとみる。

 シカが森や林に被害を与える例は、全国で相次いでいる。林野庁によると、野生鳥獣による森林の被害面積は22年度で5千ヘクタールに及び、このうち、シカの被害が7割を占めている。

 滋賀県内では56ヘクタール、京都府内でも5ヘクタールの被害があり、自生する植物がシカに食べられて林内環境が悪化したり、樹木の皮がはがされたりする例があった。

 04年には東京都奥多摩町で、シカの食害で表土がむき出しになった山から大量の土砂が流出している。シカの食害による災害のリスクは、伊吹山に限らず、全国どこでも高まっているとみるべきだろう。

 国は野生鳥獣が農作物にも深刻な影響を及ぼしていることを踏まえ、保護から生息数の適正管理へと軸足を移し、捕獲の重要性を打ち出している。13年度には、野生のシカの生息数を10年間で半減させる目標を立て、捕獲数を増やしてきた。

 だが、10年目となる昨年には、目標達成を5年先送りすることを決めた。地球温暖化の影響で生息域が拡大しているほか、越冬するシカが増えていることも要因という。

 適正な数を捕獲するには狩猟者の協力が欠かせないが、免許保持者の高齢化が進む。後継者育成とともに、デジタル技術を使った捕獲の効率化や都道府県間の連携などで、狩猟者の負担を軽減したい。

 時間はかかるが、山や森の植生を地道に回復させることも重要だ。伊吹山の保護に向けては、ボランティアや米原市レンジャー隊がシカよけ柵の設置や植樹・緑化などを続けている。

 もとより、土砂災害の責任をシカだけに押しつけられない。国や自治体は食害を踏まえた危険箇所の把握や監視などで、発生防止に手を尽くすべきだ。

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