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社説:原爆の日 「核抑止」の悪循環から脱却を

京都新聞 2024年8月6日 16時0分

 広島はきょう、長崎は9日に79回目の「原爆の日」を迎える。

 世界で再び核軍拡の危険が高まっている。「過ち」を繰り返さぬよう、世界の人々の声を集めねばならない。

 ウクライナを侵略しているロシアは、核を脅しの道具に使い続けている。5月から戦術核兵器の使用を想定した訓練を進め、プーチン大統領は核搭載が可能な中・長距離ミサイルを配備する意向を明らかにした。

 ウクライナに武器を供与する欧米をけん制する狙いは明白で、許しがたい挑発である。ロシアは核開発を進める北朝鮮との軍事協力も強化している。東アジア情勢を脅かし、看過できない。

 パレスチナ自治区ガザを侵攻するイスラエルは、閣僚が核使用も選択肢と発言した。先月起きたイスラム組織ハマスの最高指導者の暗殺を巡り、核開発疑惑のあるイランとの間で緊張関係が高まっている。報復の連鎖を生まぬよう、関係国は力を尽くしてほしい。

 世界的な紛争と分断の深まりから、核保有国は軍縮どころか増強へと動く。

 非政府組織の核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の調査では、保有9カ国の昨年の核関連支出が14兆円超に上り、前年比で1割強増えた。米国が最大の伸びを示したという。

 スウェーデンの研究所は、米ロ、英、仏に続き、新たに中国が核弾頭を実戦配備したとの分析結果を発表した。

 昨年12月にあった核兵器禁止条約の締約国会議では、政治宣言で「核抑止が軍縮を阻害している」と現状を厳しく非難した。

 国際秩序の安定に役割を果たすべき大国が、互いに「抑止」の名の下で核軍拡をエスカレートさせ、緊張を高める悪循環から脱却すべきだ。

 昨年の先進7カ国首脳会議(広島サミット)の宣言では、「核兵器のない世界」を目指すとしながら、核抑止を正当化した。岸田文雄首相は今年4月、米議会で演説したが、核廃絶を具体的に訴えなかった。今も臨界前核実験を続ける米国への働きかけができていない。

 それどころか日本は先月、米国と外務・防衛担当閣僚の会合を開き、核を含む戦力で同盟国への攻撃に対抗する「拡大抑止」の強化を確認し、「核の傘」の誇示へと傾いている。

 広島選出の岸田氏は核保有国と非保有国の「橋渡し役」を言うばかりで、米国追従の外交姿勢が目に余る。

 広島、長崎の被爆者らが参加する被爆者団体はかつて47都道府県全てにあったが、当事者の高齢化もあって解散が相次ぐ。一方で被爆2世など次世代の運営関与も増えているという。

 惨禍の記憶と核の非人道性を国内外で共有するため、唯一の戦争被爆国としての歩みを止めてなるまい。

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