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社説:財政の見通し 形だけの黒字試算では

京都新聞 2024年8月7日 16時0分

 政府は国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)が2025年度に若干、黒字化するとの試算を示した。

 政策で使う費用を、借金に頼らず税金で賄えることになるが、実現性は心もとない。

 税収増と社会保障などの支出抑制を見込む一方、経済対策として常態化する補正予算の編成は考慮していないからだ。

 日銀が金融の正常化を進める中、政府は並行して財政を「平時」に戻すための新たな目標と方策を打ち出すべき時だ。

 PBは社会保障や公共事業などの政策的経費を、主に税収で賄えるかどうか示す指標である。

 1992年度から赤字が続いており、2002年度からは「10年代初頭の黒字化」を目標に掲げた。しかし、歴代政権は借金依存を脱却できず、期限を引き延ばしてきた。

 ずるずると積み重なったのは、1200兆円を超える先進国最悪の債務だ。

 今の黒字化期限の25年度に達成と試算したのは、円安を受けて業績が好調な輸出型企業から、税収が増えると見込んだのが大きい。さらに支出面では、医療や介護の費用増を抑えるといった「歳出改革」も折り込み、合わせて8千億円程度の黒字になるとした。

 だが、うのみにはできない。

 円安頼みの税収は不透明さがあり、社会保障の抑制はサービス低下などの痛みを伴う。財源があいまいなまま突き進む「異次元」の少子化対策や防衛費「倍増」など、歳出が膨張する要因も多い。

 何より、政府が近年連発する大型補正予算で吹き飛ぶ程度の黒字だ。昨秋も13兆円超に上った。

 支持率が低迷する岸田文雄政権にとって、30年越しの財政健全化を遂げたと国民や市場にアピールすることで、信頼感を高めたいとの狙いも透けて見えよう。

 政府は、25年度予算の編成に向け、各省庁が要求を提出する際の基準を決めたが、財政の平時化を掲げた昨年からの方針に見合うような厳格さを欠く。特例や抜け穴が多い。黒字化試算は、自民党内から歳出拡大を求める圧力に拍車をかけるのではないか。

 そもそもPBの黒字化は、新たな借金を増やさないための第一歩にすぎない。日銀は、追加利上げと国債購入の縮小を決めた。「金利のある世界」の本格化は、負債の利払い増につながる。経済や将来の大きなリスクである借金財政の健全化を急がねばならない。

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