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社説:米欧大使の欠席 あまねく平和の発信を

京都新聞 2024年8月9日 16時5分

 悲惨な戦争の犠牲者を追悼し、あまねく平和を発信したいというのが被爆地の本心のはずだ。

 長崎市がきょうの「原爆の日」に開く平和祈念式典で、米欧が駐日大使の出席を取りやめる動きが出ている。パレスチナ自治区ガザ情勢を巡り、イスラエルを招待しなかったことに対する措置という。

 エマニュエル駐日米大使は、一方のパレスチナが招待されていて「式典が政治化された」と説明し、英国大使も欠席を表明した。

 だが、昨秋以降の大規模衝突はイスラム組織ハマスの奇襲が引き金とはいえ、イスラエルの侵攻でガザ側の死者が4万人近くと突出し、民間人犠牲が甚だしい。

 一方的にイスラエルを擁護する米欧の立場を持ち込み、押し付ける方が政治利用ではないのか。

 ガザの犠牲者増大への国際的批判の高まりから、鈴木史朗長崎市長は、抗議活動など「不測の事態発生のリスクなどを総合的に勘案した」と不招待を説明する。

 広島市は6日の式典にイスラエルを招待し、対応が割れた。被爆者団体が訴えるように、原爆投下国の米国や英仏中ロの核保有国、紛争当事者も全てに参加を呼びかけるのが本来の在り方だろう。

 ただ、長崎市は「厳粛な雰囲気で開催したい」とも話し、苦渋の決断だったろうが、招待や出欠を巡る反発は残念でならない。

 問題を複雑化させているのは、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの対応との兼ね合いである。

 長崎、広島両市は、侵攻開始の2022年からロシアとベラルーシを式典に招待していない。「制裁している日本の姿勢を誤解させる」との政府の要請という。

 これを取り上げ、日本を除く先進7カ国と欧州連合の駐日大使らは先月、イスラエルの不招待に懸念を表明する連名の書簡を長崎市に送っていた。「ロシアやベラルーシと同列に置くことになる」と反対し、区別した対応を求めた。

 ロシアの非道な侵略は言語道断だが、「自衛」を名目に何ら民間人犠牲を顧みないイスラエルが免罪されることはあり得ない。

 国際司法裁判所はガザ攻撃による「ジェノサイド(民族大量虐殺)」を防ぐよう警告したが、米国などは国連で非難や即時停戦の決議を妨げてきた。ロシアを断罪しながらイスラエルを支援する「二重基準」が、世界で信用低下を招いていることを自覚すべきだ。

 平和的な生存権と核の非人道性を毅然と発信していく姿勢が日本政府に問われる。

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