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社説:北陸新幹線の延伸 前提崩れた京都縦断、見直せ

京都新聞 2024年8月12日 16時0分

 京都を縦断する北陸新幹線「小浜ルート」の延伸計画は、前提が大きく崩れた。このまま押し決めれば、京都の自然や財政に多大な負荷をかけ、地域に深刻な亀裂が生じかねない。

 立ち止まって再考することを改めて強く求めたい。

 国土交通省は、延伸事業費の新試算と、京都の新駅や路線図を与党の整備委員会に示した。

 概算事業費は8年前の当初試算から2倍以上に膨張して最大5.3兆円に、工期も15年から最長28年に伸びた。

 近年、こうした国交省の試算は着工後の上振れが常態化しており、今想定も最低限のラインとみた方がよいのではないか。

 急激に進む人口減少に加え、国債利払い増など金融・財政上のリスク、世界的な物価高、車の自動運転といった交通技術の革新など、新たな工期とされた約30年間でも日本社会の姿は大きく変わるだろう。

 リニア中央新幹線の品川―大阪間全線開業との兼ね合いも考慮したい。政府は先の骨太方針で「最短2037年開業」を支援するとした。北陸新幹線の新大阪まで全線開業は、来年着工の仮定でも早くて50年になる。

 リニア中央新幹線の意義をJR東海は「東海道新幹線の被災に備えた二重系化」とする。北陸新幹線で与党整備委も、大阪延伸の利点にリニアと同じ防災面の意義を挙げている。

 加えて先にリニアが全面開通すれば、10年以上遅れて開業する北陸新幹線延伸の効果や乗客数は根底から変わろう。二つの国家事業のつながりと重複を、慎重に検討する必要がある。

 当初試算でもわずかだった費用対効果のプラスは、もはや画餅だろう。計算式を都合良く変え、水増すことなど許されない。

 新幹線ルートの決定過程自体もかねて問題視されてきた。沿線自治体選出を中心とした少数の与党国会議員だけでは、多様性や長期的な視野を反映しづらく、抜本的に見直すべきだ。

 国交省が与党に示した説明資料はわずか5ページで、新駅候補地は京都駅(下京区)や桂川駅(南区)周辺の3案である。

 京都市内の大深度地下トンネルの延長キロ数や、府南部に建設する車両基地の面積さえ記載がない。府山間部トンネルの縦断図もなく、深度や河川水系との関係は不明だ。3案を比較しようにも情報が乏しすぎる。

 懸念される京の地下水への影響について、国交省資料は「シールド工法による地下水への影響は発生しない。調査でも地下水位低下域の発生は予測されなかった」とデータを示さずに断言している。

 国交省は6月に京都盆地の深層地下水が京都駅や伏見酒造地域に到達している可能性があるとした。他工事では水枯れなどが問題化している。

 不都合な情報を伏せる姿勢なら、京都の不信感を招くだろう。

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