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社説:岸田首相が退陣へ 政治不信深め追い込まれた

京都新聞 2024年8月16日 16時0分

 国民の信頼を失ったまま、追い込まれての退陣といえよう。

 岸田文雄首相が9月に予定される自民党総裁選に立候補しないと表明した。

 自民党派閥の裏金問題という未曾有の不正に国民の不信は渦巻き、内閣支持率は2割台に低迷を続けている。

 ■「裏金事件の責任を取る」と説明したが、タイミングは…

 岸田氏は記者会見で「自民党が変わる最初の一歩は、私が身を引くこと」と述べ、「裏金事件の責任を取る」と説明したが、遅きに失したタイミングである。

 自民は4月の衆院3補欠選で不戦敗も含め全敗した。岸田氏は再選に意欲を示していたが、「次の衆院選に勝てない」との党内の包囲網を前に断念したということだろう。

 総裁選の再選不出馬による退陣は、3年前の菅義偉前首相と同じである。

 ■看板のすげ替えなら、有権者に見透かされる

 自民は政権の求心力が落ちるたびに、党内で執行部を入れ替える「疑似政権交代」で刷新をアピールし、支持の回復を図ってきた。今回も選挙に向けた看板のすげ替えなら、有権者に見透かされよう。

 裏金事件への岸田氏の対応は後手後手で小出しに終始した。政権基盤を支える旧安倍派などに配慮し、裏金作りがはびこった党の体質を根本から問い直そうとはしなかった。

 不正の温床との批判の強い企業・団体献金には手も着けず、野党から「抜け穴だらけ」と指摘されるような政治資金規正法改正をごり押しした。

 誰が裏金づくりを指示し、何に使ったのかという問題の本質は未解明で、裏金議員の処分も不十分だ。自らの退陣で水に流してもらおうというのは、見当違いも甚だしい。

 ■政権運営では、国会軽視の姿勢が目立った

 「聞く力」を自負した岸田氏だが、3年間の政権運営では国会軽視の姿勢が目立った。

 22年夏には世論が割れる中、安倍晋三元首相の国葬を強行。同年末には安全保障関連3文書を改定し、専守防衛を空洞化させる敵基地攻撃能力の保有や防衛費の「倍増」を決定した。

 原発の最大限活用も含め、与党・内閣だけで重要な政策転換を押し進めるのは、民主主義をおびやかすものだ。

 唐突な定額減税やガソリン、電気・ガス料金の補助、「異次元」の少子化対策は効果が疑わしい。場当たり的で政権浮揚を優先する姿勢を物語っている。

 ■政治不信の原因は自民全体に

 9月下旬とみられる自民党総裁選には、複数の議員が出馬に意欲を見せるが、政治不信の原因は自民全体にあることを忘れてもらっては困る。

 出馬するなら、裏金や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題に対する岸田氏の中途半端な対処を許容してきたことに対する説明と新たな対応が求められる。

 任期が残り1年の次期衆院選や来夏の参院選をにらんだ「選挙に勝てる顔」という物差しではなく、改革をどう進めるかを具体的に議論すべきだ。

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