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社説:第三者精子提供 実態の検証とルールが必要

京都新聞 2024年8月20日 16時0分

 不透明な実態の解明が欠かせない。

 夫以外の第三者から提供された精子を用いる人工授精(AID)のことだ。

 国内でAIDの実施を公表している慶応大以外に、京都大や京都府立医大など、少なくとも7大学病院で行われていたことが、精子提供者らの証言や、医師による専門誌への報告で明らかになった。

 その一方で、共同通信社が7病院を含む全ての大学病院を対象に行ったアンケートでは、「過去に実施していた」と認めた病院はなかった。

 AIDによる出産は1949年に慶応大が初めて実施して以来、1万人以上が生まれているとされる。民間クリニックでも行っており、数万人が生まれた可能性も指摘される。

 第三者が関わる生殖医療のルールに関する法律はない。現実はそれほどの規模で行われていながら、大学病院が「記録がない」などと状況把握や在り方の議論を避けるべきではないだろう。

 AIDは、子どもを持ちたいが不妊に悩むカップルの一部に恩恵をもたらす一方、生まれた子どもの知る権利の保障をはじめ、倫理上の課題などから水面下で行われてきたとされる。

 実施時に精子提供者の匿名化や実施そのものを秘匿することが一般的だった。親側の要求としても、生まれてくる子どもに対する視点が欠けていたことは否めない。

 「児童は可能な限りその父母を知る権利を有する」とする国連子どもの権利条約に照らしても、見直しは必要である。

 超党派の議員連盟は、AIDで生まれた子どもが遺伝上の親を知るための一部情報開示の規定を盛り込んだ法案をまとめ、国会提出を目指している。

 法案によると、提供者の個人情報が100年間保管され、子どもが18歳になった後に要望すれば身長、血液型、年齢に限って開示する。氏名など個人を特定する情報は提供者が同意した場合にのみ提供される。

 だが、これでは、遺伝的リスクの高い病気や自らの遺伝体質を知ることができず、近親婚の危険性、「自分は誰なのか」というルーツに関わる根本的な悩みが残る、と当事者団体は指摘する。

 情報開示の範囲を広げるとドナーが減るという指摘がある。慶応大では提供者の減少からAIDが事実上停止したが、提供者の法的位置づけが曖昧なままだ。

 欧州やオーストラリアでは、法律で子どもがドナーの個人情報にアクセスできる権利を明確にしている。

 近年、第三者への精子提供が交流サイト(SNS)などを通じて広がる動きもある。法的位置付けや実施方法を明確にし、情報開示と親子、ドナー支援の仕組みを整備する必要がある。

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