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社説:処理水放出1年 禁輸解除へ対話強化を図れ

京都新聞 2024年8月27日 16時0分

 東京電力が福島第1原発にたまる処理水の海洋放出を始めて1年となった。

 周辺海域のモニタリング(監視)で海水や魚介類に異常は確認されていないとし、東電は計画通り放出を続ける姿勢だ。

 地元産品などに国内で目立った風評被害は見られない。だが、反発した中国は日本産水産物の全面輸入停止を続け、漁業者や加工業者の打撃となっている。

 「全責任を持つ」として放出へ押し切ったのが日本政府である。丁寧な事業者支援を図るとともに、禁輸措置の解除に向け、膠着(こうちゃく)した中国との交渉の打開に手を尽くさねばならない。

 海洋放出は、2011年の事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)に触れた冷却水などを処理後、除去困難な放射性物質トリチウムを国基準の40分の1未満に海水で薄めて流す。この1年で6万トン超を排出し、完了は51年とされるものの見通せない。

 東電や関係省庁などに加え、国際原子力機関(IAEA)が影響検査とデータ公開を続け、「科学的根拠に基づく安全性」を提示してきた。風評被害の抑制に一定程度つながったといえよう。

 だが、中国政府は処理水を「核汚染水」と呼び、全面禁輸を続けたままだ。「健康に関わる問題」と批判しながら、日本近海での中国船操業や国内原発の処理水放出を不問にするのは合理性を欠いている。

 ただ、その痛手は大きい。日本の農水産物・食品輸出額は、最大相手先だった中国向けが1~6月に前年同期比4割超も減り、主力のホタテは223億円がゼロになった。政府は販路開拓や加工体制強化を支援し、米国、ベトナム向けが伸びているが、穴埋めにはまだ遠い。

 東電の賠償決定額は既に計320億円に上る。実態に即して迅速な対応が求められる。

 漁業者らが海洋放出に反対し続けていることを忘れてはならない。「関係者の理解なしに処分しない」との約束を政府、東電がほごにして強行した不信感に加え、長期にわたる安全管理への疑念は根深い。

 昨秋以降、廃液を浴びた作業員の被ばくやケーブル損傷が起き、先週のデブリ採取作業は初歩的な装置の取り付けミスで中断した。東電は緊張感を持って対応に当たらねばならない。

 禁輸問題を巡り、日中両首脳は昨年11月の会談で、対話を通じて解決を目指すと確認した。だが、中国側は独自の試料採取を求めるなど、交渉の引き延ばしや外交カードとしての温存といった政治的思惑が透ける。

 日中間では、スパイ容疑で中国当局に長期拘束された邦人の製薬会社社員が起訴されるなど、不透明な対応が多い。

 きょうから超党派の日中友好議員連盟が訪中する。あらゆるレベルで多層的な対話を重ね、早期解決を図りたい。

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