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社説:損保情報漏えい 根深い顧客軽視の体質

京都新聞 2024年8月29日 16時0分

 顧客を軽視する業界の根深い体質がまたも露呈した。

 損害保険大手4社の自動車保険加入者の契約情報が、保険代理店を通じて競合他社に漏えいしていた。流出は計200万~300万件規模にも上る見通しという。

 慎重に扱うべき顧客情報のずさんな管理がまん延していた由々しき事態である。

 損保業界は、中古車販売大手ビッグモーター(BM)による保険金不正請求や企業保険のカルテルといった不祥事が続いており、さらに信用を失墜させるものだ。

 全容を解明し、業界挙げて体質刷新に取り組まねばならない。

 情報漏えいの舞台となっていたのは、自動車ディーラーなどで複数の損保の商品を取り扱う「乗合代理店」である。

 満期が近い加入者に更新を働きかけるよう促す各販売拠点へのメールを、取り扱う損保各社の担当者にも一斉送信していた。

 加入者名や電話番号、保険料や満期などの情報が、本人に無断で大手損保の間で共有されていたことになる。保険業法や個人情報保護法に抵触する恐れがある。

 代理店が、個別に連絡する手間を省いて業務を効率化する意図から慣習化したとみられている。だが、監督する立場の損保各社は不適切な扱いを問題にせず、指導を怠っており、法令順守の意識の低さを物語っていよう。

 さらに自らの営業用に漏えいさせた事実も判明している。代理店に出向した損保社員が、他社の契約情報を自社に流していた。

 背景に、乗合代理店が店舗ごとに推奨する保険を割り当てる「テリトリー制」があるようだ。損保側がライバルの情報をつかみ、優先販売を獲得する営業活動に利用していたとみられる。

 各社の火災保険の集金などを受託する千葉銀行では、損害保険ジャパンからの出向者が、20年以上にわたり最大1万件超の他社情報を漏らしていた疑いがある。代々の出向者に不正のノウハウが引き継がれてきた形で悪質だ。

 「顧客の利益よりも自社の利益を優先する企業文化が原因」。損保ジャパンが今年1月、BM不正請求問題で金融庁から業務改善命令を受けて指摘された病根が、なお深くはびこっていると言わざるを得ない。

 顧客と法令順守をないがしろにし、損保各社や代理店がもたれ合うような業界構造にメスを入れねば、信頼回復など望めまい。国の監督責任も問われている。

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