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社説:過労死防止法10年 いっそう踏み込んだ対策を

京都新聞 2024年9月2日 16時0分

 命や暮らしを犠牲にする働き方をなくすには何が足らないのか。具体的に問い直さねばならない。

 国の責務として働き過ぎを防ぐ過労死等防止対策推進法の成立から10年が経過した。

 「karoshi」として世界で知られるなど、異常な働き過ぎの被害が国内外で問題となる中での成立だった。

 同法は罰則のない理念法で、過労死や過労自殺のない社会の実現を掲げ、政府に過労死防止に向けた対策の策定を義務付けている。

 厚生労働省には過労死遺族や労使の代表が参加する会議が設けられ、働き方の見直しが議論された。

 19年に働き方改革関連法が施行され、罰則を含む残業の上限規制が初めて導入された。終業から次の始業までに休息時間を設ける「勤務間インターバル」は雇用者の努力義務になった。 しかし、過労死の根絶にはなお遠いと言わざるを得ない。

 厚労省によると、2023年度の過重労働や仕事上のストレスを要因とする労災請求は4598件で、1099件が労災認定を受けた。いずれも過去最多となった。

 うつ病など精神障害による労災は883件で、5年連続で過去最多を更新した。心不全や脳血管障害で58人が死亡し、自殺や自殺未遂は79人と高止まりの状況だ。

 顧客による不当要求や暴言などのカスタマーハラスメントも問題となっており、労災認定の原因に追加された。

 今月、政府は3回目の「過労死防止大綱」の改定を閣議決定した。残業の上限規制が今年4月、それまで対象外だった自動車運転や建設、医療などに適用されたのを踏まえ、企業への指導などを強化することが明記された。

 大きな問題は、残業時間の「特例」の扱いだろう。労働基準法の残業上限は月45時間、年360時間だが、繁忙期などには休日労働を含め月80時間、年960時間まで残業をさせることができる。

 脳・心臓疾患の発症前2~6カ月に1カ月80時間超働いたかどうかが「過労死ライン」とされるが、特例によってその限界まで働かせることが常態化している。

 過労死が高止まりしている状況を踏まえれば、全産業での上限基準の引き下げや、労働実態に即した規制強化が必要ではないか。

 新大綱では、芸術・芸能分野を重要調査対象にしたほか、フリーランス(個人事業主)の保護に向けた「フリーランス取引適正化法」の周知徹底にも言及した

 いずれも仕事の発注者に対し弱い立場が多く、長時間・過密労働につながりやすい。しわ寄せが行かぬよう、具体的な対策を講じる必要がある。

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