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社説:省庁の概算要求 政治の責任で規律戻せ

京都新聞 2024年9月4日 16時5分

 政治の緩みきった財政規律に便乗し、分捕り合戦を繰り広げようというのか。

 2025年度の予算編成に向けた各省庁の概算要求が出そろった。一般会計の総額は2年連続で過去最大を更新し、117兆円超に膨らんだ。

 高齢化による社会保障費の増に加え、退陣する岸田文雄首相が進めた防衛費「倍増」の突出が際立つ。

 そうした大幅な上積みに向けた財源の確保はあいまいなまま、政権を去る岸田氏である。

 さらに借金返済の国債費は当初ベースで最大の約29兆円で、前年度から2兆円近く増やす。日銀の利上げで「金利のある世界」に戻り、利払い費の想定金利を引き上げた。

 返済は今後も増え続け、政策経費を圧迫する懸念がいっそう強まる。財政の持続可能性は危うくなるばかりだ。

 防衛費は過去最大となる約8兆5千億円を求めた。防衛力の抜本的強化に向け、27年度までの5年間で43兆円を投じる政府方針に沿った形である。

 だが、新たな財源とする増税の議論を先送りし、「規模ありき」で計上したのは否めない。

 大幅に増額した23年度予算の防衛費は、使い残しが過去2番目に多い約1300億円にも上った。手当の不正受給など不祥事も相次ぎ、国民は防衛省に不信の目を向けている。目的や必要性を厳しく精査し、説明する責任がある。

 一方で教員の処遇改善では、年換算で1千億円余りの国負担増を必要としている。社会保障費の伸びは4100億円と見込まれ、児童手当拡充など「異次元」の少子化対策に必要な財源の捻出も容易ではない。

 新型コロナウイルス禍で膨らんだ歳出を徹底して見直し、「平時」に戻す方針に立ち返った上で、防衛費を聖域とせず、暮らしの安心や疲弊した地域の再生に軸足を置くべきだろう。

 今月行われる自民党総裁選を経て、発足する新政権の下で予算が編成される。早期の衆院解散も取りざたされ、総選挙でアピールすべく、秋に大型の補正予算を組む可能性も指摘されている。

 膨張した概算要求には、各省庁が政局に乗じて予算を獲得し、権益を広げる思惑も透けて見える。

 借金頼みのばらまきで目先の人気取りに走るのではなく、災害など不測の事態に備えて財政の健全性を高め、余力を持つことが、責任ある政治の姿勢ではないか。

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