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「この子にします」 保護団体が引き出した野犬の子犬はひどい皮膚病だった 治療を頑張り人馴れも 「迎え入れたい」と理解ある人に正式譲渡

まいどなニュース 2024年7月15日 15時30分

茨城県茨城町は、県内でも特に野犬が多いエリアです。町内の林や畑には30キロ級の大型の野犬の群れが縦横無尽に走り回り、全ての野犬を捕獲することは困難で、繁殖も防げないのが現状です。

結果的に子犬が増え続けており、2023年末にこのエリアで複数の野犬の子犬たちが捕獲され、茨城県動物指導センターに収容されました。

最も状態が悪い子犬を引き出す決断

ほとんどの子犬たちはセンター内の同じ部屋に収容されていましたが、1匹だけ別の部屋のケージに隔離されている子犬がいました。その子犬は皮膚炎で全身がただれており、薄暗い隔離室のケージの向こうから人間をじっと見つめ、「この先、僕はどうなるの?」という不安と恐怖を抱いている様子です。

この日、野犬の子犬たちの中から1匹を引き出すために訪れた保護団体・Delacroix Dog Ranch(以下、DDランチ)のボランティアは、当初は健康体で比較的人に慣れている子犬を保護しようとしていました。里親さんが決まりやすいからです。

しかし、どうしてもあのケージの奥にいた皮膚病の子犬が気になりました。あのままでは皮膚病はさらに悪化するでしょう。

相応の治療と費用、世話が必要になることが容易に想像でき、保護先も見つかりにくいと思われました。ボランティアは「当初考えていた子犬は、ほかの団体でも引き出しやすい」と最も大変な皮膚病の子犬を引き出すことに決心。「この子にします」と申し出ました。

センター職員は「本当に?」という表情を浮かべていましたが、ボランティアはそのまま皮膚病を抱えていた子犬を保護し、「サイクロン」という名前をつけました。

「こんな皮膚病を抱えていたのだから、引き出せて良かった」

動物病院へ連れて行くと、皮膚病の原因は寄生虫による疥癬(かいせん)であることがわかりました。また、サイクロンは元々アレルギー体質でもあり、投薬や食事療法、肌への保湿などの医療ケアが必要でした。

想像通りでしたが、ボランティアは「こんなに悪い皮膚病を抱えていたのだから、逆に引き出せて良かった」と喜び、サイクロンの世話を続けました。

少しずつ回復、人間にも心を開く

やがて皮膚病が少しずつ改善。一定期間の隔離生活を経て、DDランチ提携の預かりボランティアの家で過ごすことになりました。

サイクロンにとって、目まぐるしく環境が変わった数週間でしたが、預かりボランティアと先住犬の優しさに触れてすぐに心を開くようになりました。「人間は敵じゃないんだ。良い人間もいるんだ」と理解し、人間のそばにいたがるように。預かりボランティアの後ろを追いかけたり、横に寄り添ったりするようになりました。

里親希望者と出会い幸せをつかんだ

その後、里親募集を開始。皮膚病治療は継続が必要です。サイクロンに寄り添い、家族として迎え入れてくれる里親希望者を待ち続けました。

約3カ月後、「迎え入れたい」という里親希望者が現れ、治療も含め一緒に乗り越えたいと言ってくれました。サイクロンはお見合いの際もすぐに心を開き、センターで隔離されていたときとは違う柔和な表情を見せました。

サイクロンはこの里親希望者の家に正式譲渡されることになりました。野犬として生まれ苦難を乗り越えてきたサイクロンですが、ここで「ずっとのお家」をつかむことができました。サイクロンのこれからの犬生は、いっさいの不安のない幸せなものになってくれることでしょう。

(まいどなニュース特約・松田 義人)

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